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(47) がんの放射線治療 岡山中央病院 坂本 隆吏 放射線がん治療センター長(46) 動く腫瘍追尾し狙い撃ち 副作用リスク低減

人の命を左右する仕事だけに、最新の放射線治療装置や照射技術にも慢心することはない。「適応のあるがん患者さんに最適な治療を提供したい」と話す

 直径約3・6メートルの巨大なドーナツ形が威容を誇る。8月、稼働した岡山中央病院放射線がん治療センター。最新鋭装置を駆使し“国民病”と闘うのが、異色の経歴を持つ医師、坂本だ。

 国民の2人に1人が罹患(りかん)し、死因のトップ、3割を占めるがん。種類や病態に応じ手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)の3本柱を組み合わせる「集学的治療」が今や欠かせない。

 国内では長らく、手術が主流だった。だが近年、欧米の後を追うように放射線治療が躍進した。画像診断や治療機器が進歩し、併用効果の高い抗がん剤が登場してきた帰結といえる。

 長所は「切らずに治す」点。照射に伴う苦痛はなく、臓器の機能や形態を温存できる。「前立腺がん、早期の肺がんなどは治療成績が手術とほぼ同等。高齢者や、骨、脳に転移したがんの緩和医療にも有効」と坂本。

 療法は、体の内側から放射線を当てる内部照射と、外側から狙い撃ちする坂本得意の外部照射がある。放射線は細胞のDNAに小さな傷を付け、何回も当てればがん細胞は死滅する。一方、正常細胞は傷の修復力がより強いためダメージは小さい。

 とはいえ、正常細胞に当たれば肺臓炎、直腸炎など副作用のリスクを招く。照射は病巣に極力絞るが、体表面に描いた目印を狙う従来の外部照射では、腫瘍の周辺1センチ程度、正常部まで当たるのは避けられなかった。

 難題に風穴を開けたのが、坂本も開発に携わった放射線治療装置「Vero4DRT」。呼吸などで動く腫瘍を追尾し、ピンポイントで照射できる世界初の機能を持つ。肺がんだと、正常肺への放射線量を従来より約20%低減できる。

 「胃がん、卵巣がんなどは効果が乏しい」ものの、早期がんを中心に脳腫瘍、乳がん、肝臓がん…と、ほとんどの腫瘍に適応する。1回の照射時間は約15分。前立腺がんだと平日に毎日1回ずつ計35回ほど、食道がんや肺がんの化学療法併用治療では計30回程度行う。

 生死に関わり、ミリ単位の緻密な計画、模型を使った検証も求められる治療を2011年、約350例こなし働き盛りの坂本。中学、高校と水泳で鍛えた180センチ超、100キロ近い体格から豪放磊落(らいらく)に見えるが、医家になるまでには苦悩があった。

 大学進学時に選んだ先は工学部。「治せるがん患者は医師1人では限りがある。医療機器を開発すれば何万人にも貢献できる」と医療工学を志した。が、産学連携は進んでおらず、理想と程遠い現実に転身を考え悩んだ。そんな背中を北海道大名誉教授の故三上智久に押された。

 金沢医科大で修め直し「全身のがんを横断的に扱える」と放射線科医に。放射線治療で世界的権威の京都大名誉教授阿部光幸、京都大教授平岡真寛と会い、知識と技能の錬磨、臨床経験を重ね進化を遂げた。

 「放射線治療スタッフは国内では不足しており、当センターが他院と病病連携し治療するモデルケースを目指したい」。江戸期の米沢藩主、上杉鷹山(ようざん)の名言「為(な)せば成る」を人生訓とする坂本が、岡山で新境地を開こうとしている。
 

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 さかもと・たかし 高槻高(大阪府)、茨城大工学部を卒業後、北海道大大学院中退、金沢医科大卒。京都大学病院放射線科、熊本大学病院放射線治療科医局長、健康保険諫早総合病院(長崎県)放射線治療部長などを経て2012年4月から現職。放射線治療専門医、がん治療認定医。神戸市出身。趣味は写真、旅行、ドライブ。


 Vero4DRT 三菱重工業(東京)、京都大、先端医療センター(神戸市)が産学連携で開発した放射線治療装置。2000年からプロジェクトが始動し11年9月、京都大学病院で肺がん患者に世界初の追尾照射を行った。

 ドーナツ形のリング内に備えた2組のエックス線撮影装置などで、治療台に寝た患者の腫瘍位置をリアルタイムに把握。放射線を出す照射ヘッドの向きを追従させ、正確に腫瘍をとらえられる。照射口(15センチ四方)の形状は腫瘍の形に応じて自在に変えられ、照射の強弱や向きを調整し病巣に線量を集中させる「強度変調放射線治療(IMRT)」も行える。岡山中央病院は中四国初の導入で、保険が使え通院で治療できる。


 外来 坂本センター長の診察は月〜金曜日(祝日休診)の午前9時〜午後4時。完全紹介、予約制。


岡山中央病院

岡山市北区伊島北町6の3

電話 086―252―3221
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年09月17日 更新)

タグ: がん岡山中央病院

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