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(8)がんとうつ 岡山大大学院医歯薬学総合研究科精神神経病態学教授 内富庸介

うちとみ・ようすけ 山口県立徳山高、広島大医学部卒。国立呉医療センター、広島大を経て、1995年、国立がんセンターにがんと心の関係を扱う精神腫瘍学部門を創設。2010年から現職。専門分野は、がん患者と家族の心のケア。

 がん患者さんとご家族のうつ状態の診療と研究に携わって30年弱がたちました。がんを治療したからと言って、即、がんから自由になれたとはいえません。これまでの研究でわかったことは、がん告知をはじめ幾つかの悪い出来事の後におよそ6人に1人の方がうつを経験し、うつはいつでも誰にでも起こりうる“心の激痛”であるということです。がん治療よりもうつの方がつらいと言って治療そのものを諦めてしまう方もおられるのです。

がんとうつの関係について

 うつの決定的な要因は、直近の出来事(Life Event)が関連するということです。生命を脅かすことのみならず、がんによって仕事を失うかもしれない、大事にしている生活や人生を失うかもしれないなど、多くの喪失が連想されるからです。

どういう症状が現れたら専門家に相談したらよいのか

 中心となる症状は、二つ。興味や関心が持てない(例えばテレビ、新聞、趣味、孫や友人と会うことに対して)、もしくは一日中気分が沈むという期間が2週間以上続く場合です。でも、ほとんどの方は医療者への相談まではなかなか踏み切れません。自分だけが弱いのではないかと、自分を責めることが一般的です。うつの症状の半分は体の症状ですので、不眠、食欲減退、5%の体重減少、だるさなどの症状が加わり、これまでの日常生活に少しでも支障をきたしてきたような場合は、「今はまだいいから」と考えずに、担当医や看護師、患者相談室のソーシャルワーカーに、「この病院には心の専門家はいませんか?」と尋ねてみるといいでしょう。うつのスクリーニング=図参照=を使って、心の負担をチェックすることも重要です。精神腫瘍科、精神科、心療内科が対応します。

専門家はどのような治療をしてくれるのか

 基本となるのは、休養(充電)できる生活環境を整えたうえで、まずカウンセリングです。がんを抱えてからの道程をまず話していただきます。続いて、がんになるまでの生活史についてうかがいます。そうすることで、患者さんの置かれた状況を踏まえて現在のつらさの理解を深めることができます。患者さんが自分の苦しみを過不足なく理解されたり、受けとめられたりしたと感じられたとき、心の治療がスタートします。どうか、恥ずかしがらずにお話しください。がん治療と並行して心の治療を受けていくと、不要な負担を減らしてがん治療をスムーズに受けられます。

 話すことが苦手な人には、リラックス法もあります。リラックスして体の緊張を和らげることで、不安・緊張感を和らげ、寝つきをよくする、痛みを間接的に軽くするなどの効果が期待できます。例えば顔や手、肩をはじめ全身の筋肉の緊張を意識的にほぐしていきます。リラックス法は、臨床心理士など経験のあるスタッフの指導で行いましょう。

 薬もあります。おおむね、半数弱の方が使用します。睡眠導入剤や安定剤がほとんどですが、痛みや吐き気を抑えて、食欲を増す抗うつ剤などもありますので、専門家のアドバイスをしっかり聞いて納得してから飲み始めましょう。

うつにならないために、またうつが再発しないためにどのようなことを心がけたらよいのか

 悪い出来事はうつに直結しますので、がん治療中の不要な出来事は先延ばししたり、避ける努力が必要です。また、予測される出来事や事態に普段からある程度、備えがあると助けになるでしょう。備えとして推奨されるものは、普段からつらい気持ちを話せる相手を持つことです。家庭に1人、職場に1人。生活の基盤をおく場所ごとに、話せる相手がいることはショックを受けたとしても、うつにならずに早く抜け出せることにつながるでしょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年09月17日 更新)

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