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岡山大病院の「キャリア支援制度」5年目 女性医師60人復職

在宅療養中の患者を診る小松医師。キャリア支援制度で復職し、臨床医を続けている=倉敷市内

 出産や育児で離職した女性医師の復帰をサポートするため、岡山大病院(岡山市北区鹿田町)が本人の希望に応じて勤務時間を自由に決められる「キャリア支援制度」を設けて5年目を迎えた。これまでに60人が制度を利用して復職。医師不足の緩和だけでなく、利用者自身が女性の働きやすい環境づくりを進めるなど、広がりを見せている。

 「支援制度がなければ臨床医を続けられなかったと思う」

 岡山大病院で勤務後、昨年2月から訪問診療が専門の「つばさクリニック」(倉敷市大島)に勤める小松万寿美医師(33)は実感を込めて言う。5歳の娘と2歳の息子を保育園に預けて週4〜5日勤務。がんや脳梗塞の患者らの在宅療養を支えている。

 同病院の総合診療内科に勤めていた2006年に長女を出産し、いったん退職。08年度から始まったキャリア支援制度を利用して復職した。

 週5日のフルタイム勤務だったが、当直や呼び出しの免除で負担が軽減された。第2子を産んだ際も引き続き制度を使い、10カ月で職場に復帰。その後同病院を退職、以前から興味のあった在宅医療に従事している。

 「医療の世界は日進月歩で、現場を離れると復帰が難しくなる。辞めずに居続けられることが大切」と小松医師は話す。

 厚生労働省によると近年、医師総数に占める女性の割合は増えており、2010年度は18・9%。29歳以下では35・9%に上る。医師不足を解消していく上でも離職防止は大きな課題だ。

 キャリア支援制度は、岡山大病院が07年度から始めた復職支援プログラムの一環。「職場に迷惑をかけない勤務体制が必要」との声を受け、翌年度医師の定員を増やす形で、週620時間(常勤換算で20人分程度)の勤務時間を「復帰枠」に設定。その枠内なら個々の勤務時間を自由に決められるようにしたため、復職希望者が大幅に増えた。女性医師の割合も08年の19・5%から11年は24・0%に上がった。

 波及効果も大きい。09年に院内へ開設された病児保育ルームでは、復職した女性医師が子どもの利用対象年齢引き上げや、受け入れ状況のホームページ告知など、利用者目線での運用改善を進めた。

 復職者増加を背景に、同病院は今年6月に女性医師の診察を望む患者向けの「女性外来」も開設。担当医4人のうち2人が支援制度を利用した医師という。

 一方で、より多くの医師が支援制度を使えるように、子どもの小学校卒業時までだった利用期間を本年度から3年間に短縮。フルタイム勤務への早期復帰を促すとともに、個別の相談支援を充実させている。

 成果を上げる復職支援だが、今後は地域の医療機関にどう広げるかが課題。特に医師不足が深刻な地域ほど、その必要性は高い。

 制度を担当する医療人キャリアセンターMUSCATの片岡仁美センター長は「将来は岡山県北の医療機関などにセンター支部のようなものを置き、実態に応じた支援方法を検討していきたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年09月24日 更新)

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