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(50) サイバーナイフ治療 転移性脳腫瘍の患者、7割が消失・縮小 岡山旭東病院サイバーナイフセンターセンター長・脳神経外科主任医長 馬場 義美(65)

「がんが脳に転移したら予後が短いとあきらめる状況ではなくなった。サイバーナイフが治療を変えつつある」。馬場センター長は12年間の経験で治療の信頼性を高めてきた

 熱帯魚が群れ泳ぐ壁画に彩られた水族館のような廊下を進む。待っていたのは見上げるような背丈のロボットアーム。

 壁を隔てた隣室の技師が操作すると、鎮座していたアームがかすかなモーター音とともに向きを変える。六つの関節を持つ「腕」は踊り子のようにしなやかな軌跡を描く。

 「目に見えないナイフ。脳の奥深くまで入っていける魔法のナイフですよ」。2000年に岡山旭東病院にサイバーナイフが導入されて以来、3096件(今年7月末現在)の治療のほとんどに携わってきた馬場が信頼のまなざしを向ける。

 サイバーナイフは米スタンフォード大のジョン・アドラー教授が開発し、1994年から臨床が始まった。同病院は国内3番目、世界8番目の稼働。馬場はサイバーナイフの将来性を見込んだ土井章弘院長に請われ、専任医師として赴任した。

 自在に動く腕は最大1200通りの方向に放射線ビームを照射できる。対象疾患のほとんどは頭蓋(ずがい)内や頸部(けいぶ)の腫瘍だが、患部めがけて多方向からビームを発射することで、1本ずつのビームは弱くても中心部にエネルギーを集中し、大きな治療効果が得られる。

 狙った焦点に対する精度は約0・4ミリという匠(たくみ)の腕は、周囲の正常組織へのダメージを最小限にできる。患者は治療中、マスクをかぶり頭を固定しておくだけ。腫瘍が大きかったり数が多い場合は、数回に分けて照射することもできる。

 腕だけでなく「目」もある。エックス線カメラが治療中の患者の頭の動きを解析。もし位置がずれても1センチ以内なら自動的に追尾し、ビームの照準を補正して照射を続ける。

 馬場は脳神経外科専門医として28年間、手術に明け暮れた。脳の構造や神経系は目をつぶっても描けるほど熟知している。メスをサイバーナイフに持ち替えてからは、いかに最善の治療計画を作成するかに心血を注ぐ。

 CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像装置)のデータをコンピューターソフトに取り込み、放射線で傷害を受けやすい視神経などをできるだけ避けるよう、ビームの方向や線量を調整して何度もシミュレーションする。

 「外科手術で取り除ける腫瘍は脳の表面に限られ、1個かせいぜい2個まで。従来なら手術をあきらめていた症例がかなりサイバーナイフの治療対象になっている。再発も少ない」と自信を見せる。

 最も多いのは肺がんや乳がんが脳へ転移してくる転移性脳腫瘍の治療。およそ7割の患者は腫瘍が消失したり縮小し、2割は増大が止まるという。

 脳に転移して手足が麻痺(まひ)したり、しゃべりにくくなったりすると、生きる意欲を失い、うつ状態に陥るがん患者は少なくない。サイバーナイフは一条の光明となりつつある。

 「麻痺が改善し、他人に頼らないで生活できる状態に回復することを目指す。家に帰って家族とすごしたり、その人らしい生き方をまっとうできる患者さんがたくさんいます」

 メスを持ち替えたことに後悔はない。(敬称略)

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 ばば・よしみ 広島大付属福山高、岡山大医学部卒。松山市民病院、市立備前病院などに勤務後、ニューヨーク大神経科学研究所に留学。香川県立中央病院や三豊総合病院の脳神経外科部長を歴任した。2000年10月から岡山旭東病院サイバーナイフセンター長を務める。趣味はアマチュア無線。

 定位放射線治療 頭蓋内の局所病変に対し、多方向から放射線ビームを一点に集中して照射する。ヘルメット状の装置にコバルト線源201個を配置してガンマ線で治療するガンマナイフと、エックス線を発する直線加速器がロボットアームの先端に取り付けられたサイバーナイフが代表的。病変に正確に照射するため、ガンマナイフは金属製のフレームをねじで頭骨に固定し、サイバーナイフはネット状のプラスチックマスクを装着する。サイバーナイフは頭蓋外の頸部のがんや、肺がん、肝がんの一部にも保険適用されている。岡山旭東病院は現在、頭蓋内・頸部の病変に限定して治療している。

 外来 サイバーナイフセンター・馬場センター長の診察、治療は予約制。主治医の紹介状持参が望ましい。

岡山旭東病院

岡山市中区倉田567の1

電話 086―276―3231
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年11月19日 更新)

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