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(11)どこか不思議なこどもたち(発達障害) 倉敷中央病院小児科部長 高橋章仁

たかはし・あきひと 倉敷青陵高、岡山大卒。岡山大学医学部付属病院、福山医療センター、高知医療センターなどを経て、2009年9月から倉敷中央病院小児科、11年4月から現職。日本小児科学会専門医、日本新生児・周産期医学会新生児専門医。

森の幼稚園の健康診断

 今日は、こどもの森の幼稚園の健康診断です。こどもたちがお母さんたちと一緒に集まって来ていますね。こどもたちも緊張気味かな? ちょっと様子をのぞいてみましょうか。

 お母さんと一緒に並んで順番を待っている子もいれば、友達と仲良くおしゃべりをしている子もいますね。あれ? 運動場には、お母さんが呼んでも知らんぷりで、すべり台をしている子がいますよ。庭の隅では、お友達がおはようと声をかけても目も合わさず、小石を並べている子もいます。何かちょっと気になりますね。

 大人と違って、こどもは、心も身体も日々成長しています。もちろん、成長の方向と速さは、こども一人ずつで違います。その違いが個性の一面として現れてくるのでしょう。

 幼稚園・保育園は、こどもの個性に合わせながら、楽しく集団生活を学び、少しずつ社会性を身につけていく場所です。多くのこどもたちの成長を見守ってきた幼稚園・保育園の先生から、“あなたのお子さんについて、念のために発達の相談へ行かれたらどうでしょうか?”というお話があったらどうしましょうか? でも、そのことはこどもの発しているSOSのサインかもしれませんよ。

発達障害って?

 こどもの成長において、最近発達障害がクローズアップされています。これから図1に示されている代表的な発達障害について簡単に説明します。

<自閉症>

(1)言葉の遅れ(2)他人とのコミュニケーションを取るのが難しい(3)特定のものごとへの強いこだわりがある

 この三つが特徴的で、知的能力に問題を抱えている場合もあります。かんしゃくやパニックを起こしたりすることもあります。自閉症的特徴を少し持っている場合を広汎性発達障害と言い、この中で、知的能力に問題がない場合を高機能自閉症と言います。他人との関わり方(社会性)を身につけ、コミュニケーション能力を高めることを目標に、本人に適した療育を早期から開始することが良いと言われています。

<注意欠陥多動性障害(ADHD)>

(1)物事に集中できず忘れっぽい(不注意)(2)落ち着きがなく静かにしていられない(多動)(3)思いついたままの行動をとってしまう(衝動性)

 この三つが特徴です。先生のお話に集中できず、勉強が遅れてしまうことがあります。注意を保ちやすい生活環境を整え、医師の指示で集中力を高めるお薬を飲んでもらうこともあります。どうしても家庭や学校で目につきやすいお子さんになります。幼少時から叱られてばかりで、自尊心の消失、向上意欲の欠如へつながり、前向きな人生観を持てなくなる子もいます。長所を褒めて自信を持たせてあげること、できないことを叱るのではなく、こうすれば良かったねと説明して、自己肯定感を育てていくことが大切ですね。

<学習障害(LD)>

 三つめは知的能力には問題がないものの、ある特定の学習について習得すること(例えば、文字を読むこと、書くこと、計算をすること等)だけが大変困難な場合です。その子の持つ長所を伸ばしつつ、その子の持つ問題に即した教育方法が必要です。

ひとりで悩まないで

 こどもには一人ずつ生まれ持った特徴があります。これらの発達障害も実はこの生まれ持った特徴の一つです。けっして親御さんの育て方やしつけが原因ではありません。

 でも、こどもと笑顔で触れ合える時間をもう少しつくってみませんか。こどもは、身近な人との触れ合い、絵本読み、遊びなど人間味のある経験を重ねることによって、優しさを身につけ、言葉を覚え、心と身体を成長させます。テレビ、ビデオ、ゲーム、インターネット等機械的なメディアだけでは、愛情にあふれた体験はできませんよね。

 もしも、幼稚園や保育園の先生あるいは保健師さんから、お子さんについてちょっと気になりますね、一度、相談にいってみたらと声を掛けられたら、ぜひ、勇気を出して、小児神経科や児童精神科などのある病院を訪ねてください。地域の保健センター、児童相談所でも良いですよ。何が問題なのか?を専門的に調べてもらって、もし必要なら、お子さんの可能性を伸ばす方法を一緒に考えてみませんか。その子の特徴に合わせた関わり方・サポート・療育を早くから行うこと、例えば、2~3歳の幼児健診の頃から相談を始めても良いと言われています。最初は心配で不安かもしれませんが、あなたとそしてお子さんのためにも、そのお医者さんの言われることをしっかり聞いて、信頼してください。

 少しずつですが、こどもの成長とともにあなたの笑顔も取り戻せてくることでしょう。そしてその笑顔がこどもの成長をさらに後押しします。

 さて、そろそろ準備ができたようなので、私は健康診断のお手伝いに行きます。今日のお話は終わりにしましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年11月19日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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