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噛んで食べることの意義 社会医療法人社団十全会心臓病センター榊原病院 榊原 敬

 医学が進歩し遺伝子の解析が進み、人間の体の仕組みについてずいぶん解き明かされてきました。しかし、いかに医学が進歩しようとも、噛(か)んで食べることを代用することはできません。現代医学では食事を食べなくとも多少の期間は点滴で生きることができます。食事と同等の高いカロリーが補給できる中心静脈栄養であっても、(10年ぐらいは問題ありませんが)20年をすぎるといろいろ問題が生じることが知られています。人間の生理的機能はまだ十分に解き明かされてはいません。微量元素やすべてのビタミンについて明確に解明されたわけではありません。さらにカルシウムの吸収代謝においては現在の医学知識では説明しきれない部分があり、未知のホルモンが関与しているのではないかとも考えられています。

 バランスのとれた食事を摂取することは、現代医学の点滴では真似ができないことなのです。食事摂取でできる皮下脂肪は黄色ですが、中心静脈栄養でできる皮下脂肪は白色で、同じではありません。栄養素の補給にとどまらず、食事を噛むことで脳細胞が活性化され小児の発育が促されること、噛まない食事をしていると老化やボケの進行が早く進むこと、食事が消化管を通ることで腸管免疫を活性化させ外科的手術後の回復が早いことなど、食事をよく噛んで食べることには多くのメリットがあります。80歳で20本の自分の歯を残すよう推奨されています。歯が丈夫であればいろいろな食事をすることが可能であり、結果的に長寿となります。高齢であっても元気に活動し、健康で過ごすことは重要なことです。

 日本が経済的に豊かになるとともに、飽食の時代を迎えました。人類130万年の歴史のなかで飢餓や栄養失調はあっても、飽食や過食ということはありませんでした。高カロリー高脂肪の食事が生活習慣病の契機となり、肥満、高血糖、メタボリックシンドロームなど健康を蝕む原因となっています。「過ぎたるは及ばざるが如(ごと)し」の言葉の通り中庸を保つこと、すなわち適度な量、栄養バランスのとれた食事をすることが大切です。心臓病、糖尿病、脂質異常、肝臓病、腎臓病、透析、潰瘍、胃切、貧血などの病気では、食事療法が必要になります。減塩、低脂肪、栄養バランスのとれた食事となると、好き嫌いや味覚がおいしくないなど、なかなか生活習慣の改善を続けられないことがあります。当院では栄養指導を通して、健康に役立つ食事メニューの提案や調理の工夫など病客さまの視線で考えた指導を行っています。ちょっとした努力や工夫で元気で、心豊かに過ごすことができます。人間にとって大切なことのひとつは、よく噛んで食べること、そしてそれが継続できることなのです。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年11月26日 更新)

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