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(19)白い歯(ホワイトニング) 朝日高等歯科衛生専門学校校長 渡邊達夫

 一時期、日焼けサロンが話題になったことがある。黒い肌に魅力を感じた最先端を自負する若者が通い、ファッションみたいなものだった。ところが2009年、WHOの国際がん研究機関は「日焼けマシーン」を使用すると、がんを起こす可能性があるとして、発がんリスク分類で最も危険性の高い「グループ1」にこのマシーンを位置付けた。30歳未満で日焼けマシーンを使った人は、使わなかった人に比べ75%も皮膚がんになる確率が高いことが示された。

 歯への装飾は今から2500年前、メキシコ南部で行われていた。前歯11本に翡翠(ひすい)やトルコ石を埋め込んである頭蓋骨が見つかっている。この装飾は男性の歯にされたもので、女性では見つかっていない。今でもダイヤモンドを歯に埋め込んでいる人もいる。

 昭和の初期、前歯がムシ歯になると金の冠をかぶせることがあった。しかし、前歯だけは白い歯にしたいという希望があったのだろう、金冠の一部を開いて白い歯の部分を見せるかぶせ方がはやった。一部の面を開いたもので、開面金冠とよんでいる。それが魅力的だったのか、総入れ歯にわざわざ開面金冠を付ける人も出てきた。ステータス・シンボルだったのかもしれない。それがいつの間にか、格好悪いものになってしまった。今は何故(なぜ)か、白い歯が好まれる。

 歯がちゃんと成長するといちばん表側のエナメル質は透明になる。第二層の象牙質は薄黄色で、それが透けて黄色みがかって見えるのが自然の歯の色である。ところが歯が作られている間に高熱を出したり、薬を飲んだりすると、エナメル質を作る細胞が十分働けず、透明にまではならない。白っぽくなったり、斑点が出来たりする。

 パッチリした明るい瞳に真っ白く輝く歯。杜甫が楊貴妃の美しさを詠んだ時に作った詩だという。吉備真備が唐に渡った頃である。あれから1300年たった今も、白い歯にあこがれる人は多い。歯を白くするのに最も簡単な方法は、歯科医院に行って磨いてもらうことである。長年かかって付いた汚れも結構きれいに落ちる。

 生まれながらに歯の色が悪い人がいる。こんな人の場合は磨くだけではきれいにならないので、過酸化水素(オキシドール)や過酸化尿素を使って歯の表面を漂白する。これがホワイトニングで、歯科医院で行うものをオフィス・ホワイトニングと言う。まず、歯肉に薬剤がつかないように前処理をしてから過酸化水素を歯の表面に塗り、光を当てて活性酸素に変える。活性酸素は歯の表面から有機物でできた管の中に染み込み、着色したものを分解し無色にする。活性酸素の染み込みは想像以上に強く、エナメル質(1・5ミリメートル幅)を超えて象牙質にまで達することがあるので、処置後、歯がスースーしたり、冷たいものが凍(し)みたりする人が、3人に1人ぐらいは出る。

 ホーム・ホワイトニングというのは、歯科医院で個人の歯の型を作ってもらい、それに薬剤を入れて自分で処置する。やりたい時にやれるのが利点だ。オフィス・ホワイトニングに比べたら薬剤の濃度が低いし、急激に活性酸素を発生させるわけではないので、長い期間がかかる。

 最近では、自分の思った通りの白さに近づけることが出来るようになった。白さの程度もいろいろあり、自分に合ったものを選びたい。顔が黒いのに、極端に白い歯にしてしまうと調和がとりにくい。また、その白さを維持しようとすると、色の後戻りがあるので、一生のうち何回も歯科医院に通わなければならない。

 ホワイトニングをしても気に入らなかったり、何回も歯科医院に通うのが気になる人には、歯を薄く削って人工の歯を張り付ける方法もあるが、天然の歯を削るデメリットがあまりにも大きすぎるように思える。

 歯のマニキュアは自然の歯の上から塗って自分の望んでいる色にする方法で、数日で取れてしまうものが多い。しかし、それが一つのメリットかもしれない。自然の歯は歳(とし)を取るとともに黒ずんでくるし、歯の先端と根元では色が違っている。そんな歯を好むか、ダイヤモンドや翡翠入りの歯を好むか、みんな考え方が違っている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年12月19日 更新)

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