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(21)インプラント義歯 朝日高等歯科衛生専門学校校長 渡邊達夫

 インプラントの入れ歯が増えて、いろいろな疑問が出て来た。インプラントは、体に埋め込む人工臓器で、人工関節、心臓のペースメーカー、白内障などの人工水晶体の埋め込みなどと同じ分類になる。

 インプラント義歯の効用は、私の経験からすると、出し入れの入れ歯よりはズットよく噛(か)める。ブリッジと比べると使った感じはほとんど変わらないが、隣の歯に掛ける負担が無いのでお薦めである。インプラント義歯は、今までの入れ歯と比べたらたくさんのメリットがある。まず、隣の歯を削らなくてよいこと、隣の歯への負担が掛からないこと、違和感がないことなどだ。

 デメリットは、噛んだという感覚が無くなってしまうことが一番大きい。歯は、歯根膜というものを介して骨に植わっているが、この歯根膜には神経が来ていて、物を噛むたびに脳へ刺激を送って、いろいろな行動を起こす。硬いものだったら強く噛むし、軟らかいものを噛んだときはそれなりの噛み方をする。飼いイヌに餌を指で与えると、えさを噛んだときは必死になって噛むが、飼い主の指を噛んだ時は即座に判断して力をゆるめる。歯に当たった感覚から、イヌが力をゆるめてくれたのだ。年をとると指先の感覚も鈍り、髪の毛を掴(つか)んでいてもわからないが、天然の歯で髪の毛を噛んだ時、歯根膜の神経が判別して、それを知らせてくれる。

 歯根膜はまた、歯と骨の間のクッションの役目もしている。そのクッションのおかげで生まれてから何十年と噛み心地を楽しんできた。インプラント義歯にすると、噛んだという感覚が無くなってしまい、噛み心地が落ちてしまうのは歯根膜がないからだ。その意味では差し歯(継続歯)の方が勝っている=表参照

 インプラント義歯は保険がきかないので、全部私費でやることになる。これを自由診療と言う。医療機関が医療費を自由に決めることが出来ることからこの名前がついた。したがって費用は千差万別で、1本当たり20万円弱から50万円くらいの幅がある。全国的には20〜30万円が最も多く(49%)、次いで30〜40万円(32%)となっている。顎の骨に埋め込むインプラント体の値段が違うことが大きく影響している。

 患者さんは出来るだけ安くて長持ちするものがほしい。メーカーは良いものを出来るだけ高く売りたい。歯科医師も長持ちするものを作って、信頼を得たいし、儲(もう)けたい。このバランスがとれた所で値段が決まる。これが自由主義の典型である。世の中には平等主義、公平主義、修復主義などさまざまな正義があるが、日本は自由主義がさらに進み、自己責任という言葉が幅を利かすことだろう。

 自己責任なんて言葉が出てくると、保証はどうか、成功率はどうかとなる。インプラント義歯の保証期間は大体10年間である。成功率は10年間で、上顎が81%、下顎が95%となっているが(1990年)、最近はインプラント体表面の改善(光機能化)が進み、もっと高い成功率が得られるようになった。1995年に調べた岡山県内のブリッジの寿命が8年であることに比べたら、インプラント義歯は長持ちする。

 インプラント義歯における失敗のほとんどがインプラント周囲炎で、インプラント体が埋まっている所から膿(うみ)がでてくる。ついにはグラグラしてきて抜けてしまう。インプラント周囲炎の予防法は次回にまわすが、結論は「つまようじ法」が効果的である。

 その他の失敗例として、手術中に顎の中を走っている神経を傷つけてしまい、唇にしびれが残ることがある。軽い場合は数カ月で元に戻るが、一生続く人もいる。また、骨の中の血管を切ってしまい、出血多量で死んでしまった例もある。しかし、このような例は今では考えられない。

 最終的には自分の歯が一番、次いで差し歯、インプラント義歯は三番目と言うのが個人的な感想。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年01月21日 更新)

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