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(55) 前立腺がん手術 岡山労災病院 那須良次泌尿器科部長(52) 腹腔鏡用い小さく切開 性機能温存に努める

手術室に立つ那須部長。「先輩方の長所を取り入れ、私の小切開手術は出来上がった。患者さんのお役に立ちたい」と話す

 男性特有のがんで知られる前立腺がん。欧米人に多かったが、国内でも高齢化、食生活の欧米化に伴い患者が近年急増し、年間死者は1万人を超す。

 昨年末、他界した俳優小沢昭一さん、日本将棋連盟会長(当時)の米長邦雄さんもこのがんだった。だが「ゆっくりと進行する特徴があり、早期に見つけ、治療すれば完治の可能性は高い」と那須は力説する。

 とはいえ、前立腺がんは初期の症状が無きに等しい。そこで発見の切り札となるのが「PSA(前立腺特異抗原)検査」だ。PSAはタンパク質で、前立腺に異常があれば血液中に増える。わずかな採血で測定でき、健康診断などで普及が進んだ。おのずと早期段階からがんが見つかるようになり、治療法も拡充していった。

 那須が手掛けるのは「腹腔(ふくくう)鏡下小切開手術」と呼ばれる前立腺全摘除術。従来の開腹術に腹腔鏡(小型カメラ)を併用し、体の負担を少なくした。

 手順は従来と変わらない。全身麻酔をかけ、電気メスで下腹部を切開し、まず前立腺周辺のリンパ節を切除。がんのある前立腺と精嚢(せいのう)を摘出した後、膀胱(ぼうこう)と尿道を再びつなぎ合わせる。

 違いは腹腔鏡を挿入し、モニター画面で体内の様子が見える点。「拡大鏡をつけた肉眼の死角にある血管も確認でき、出血防止に役立つ」。このため皮膚切開は6〜8センチと従来(10センチ以上)より小さく、回復が早い。

 手術は4時間前後、入院期間は10日程度。「ロボット手術にはない触覚も駆使し、安全、確実にがんを摘出できる」と那須は自信を見せる。

 前立腺の内部にとどまっている早期がんが主体だが「外部に少し顔を出した局所浸潤がんまで適応可能。おおむね75歳まで行える」と言う。ただ、術後の合併症として勃起障害(ED)、尿漏れが懸念される。

 那須は患者が性機能保持を望めば、前立腺近くを通る勃起神経の温存術に努める。「前立腺表面の膜を残し、中だけくり抜くように切る」。しかし、がんの進行度によっては難しい。一方、尿漏れは「手術直後に起きやすいが、数カ月から半年でほぼなくなる」と語る。

 この小切開手術は、実施施設が限られる。厚生労働省の基準を満たした施設しか、公的医療保険が利かないためだ。岡山労災病院がクリアできたのは、那須の腕に負うところが大きい。

 その礎は、1984年に入局した岡山大泌尿器科で築かれた。手術の名手だった前教授(現名誉教授)大森弘之、現教授の公文裕巳に、手技や患者回診の重要性をたたき込まれた。

 赴任した呉共済病院などでは他科の手術にも積極的に立ち会い、消化器外科や婦人科医に教えを請うた。それらが那須の血となり、肉となった。

 90年代半ば、国内で本格化した前立腺がん手術の術者となり、日夜研さんを積んだ。通算約250例のうち、2005年ごろ始めた小切開手術は約150例。最近は専らこの術式で行い、腎臓、膀胱がんなどにも応用しているという。

 患者本位の姿勢で執刀に全力を尽くし、多忙な日も回診は欠かさない。「まだまだ進化の途中です」と、練達の士のあくなき挑戦は続く。(敬称略)

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 なす・よしつぐ 岡山朝日高、岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。呉共済病院、岡山大学病院、高知医療センターなどを経て2008年から現職。岡山大医学部臨床教授。日本臨床腎移植学会腎移植認定医。趣味は旅行、スポーツ観戦。

 前立腺 膀胱下に隣接し、尿道を取り巻くクリ大の器官。前立腺液を分泌し、精嚢から分泌された精嚢液と混ざり合って精液となり、精巣で作られる精子を保護する。

 前立腺がんの治療法 手術、放射線治療、内分泌(ホルモン)療法、抗がん剤による化学療法がある。手術(前立腺全摘除術)には開腹術、下腹部に数カ所開けた穴から小型カメラや器具を入れて行う腹腔鏡手術、手術ロボットを使う最新の方法まである。

 外来 那須部長の診察は月・火・木曜日午前(8時半〜10時半受け付け)。かかりつけ医の紹介状持参が望ましい。


岡山労災病院

岡山市南区築港緑町1の10の25
電話 086―262―0131
メール shomu2@okayamah.rofuku.go.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年02月04日 更新)

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