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こどもの森の小児科医 特別編・上 倉敷中央病院副院長、小児科主任部長 新垣 義夫

あらかき・よしお 沖縄県立首里高、京都大卒。国立循環器病センター小児科を経て、2000年5月倉敷中央病院小児科、03年10月から小児科主任部長、12年6月から副院長。日本小児科学会専門医、日本循環器学会専門医、日本小児循環器学会専門医制度暫定指導医

イラスト・広地わかなさん(倉敷中央病院)

 「こどもの森」シリーズでは、病院で働く者たちから見た、こどもたちの魅力、危うさ、こどもたちを取り巻く環境の優しさ、厳しさ、成長して社会を担うようになることの素晴らしさ、つらさなどについて、からだやこころ、そして病気のお話を通してお伝えしてきました。

森のこどもたち

 こどもたちはおなかの中にいるときから、そして生まれるときから、さまざまな試練にじょうずに対応しながら元気に大きくなっていきます。でも中には病気のために長い間、病院での生活を余儀なくされるこどもたちがいます。さらには、数は少ないですが、生命は取り留めたものの、自分で食べることができずに管(くだ)による食事(経管栄養)や人工呼吸器による呼吸が必要なまま、家での療養(在宅療養)に移らざるを得ないこどもたちがいます。

 どのこどもたちもみんな大きくなり、いろいろなことができるようになります。早いか遅いかの差はありますが、こどもたちはみんな“発育”し、“発達”しています。森のこどもたちは、新生児・乳児期、幼児期、学童期、思春期を経て、巣立っていくわけですね。こどもの森の絵=図1=を見ると、こどもたちがどの時期にいるのか、どの森で遊んでいるか良くわかります。おとうさん、おかあさん、おじいちゃん、おばあちゃんもたどってきた森の小道です。

 こんな話があります。生物は“自己組織化”といって自分で生きていくのによい状態へと変化していく能力があるとされています。自分たちの力で自分自身の内的環境や外的環境を整えるのです。こどもたちなりに自分でがんばって病気や困難を乗り越えているのですね。この能力を妨げないように、この能力を発揮しやすいようにしてあげるのがまわりの人たちの役目だと思います。わたしたち、こどもの森の小児科医もそのお手伝いをしています。

「こどもの森」の倉敷中央病院(倉中)

 さて、「こどもの森」の中で倉敷中央病院(倉中)はどのような役割を担っているのでしょうか。

 倉中の創立=1923(大正12)年6月2日=と同時に小児科が開設されました。昭和50年代には「心臓」「腎臓」「未熟児・新生児」を中心にした倉中の現在の小児科の診療体制が整いました。さらに「血液・腫瘍」「神経」「代謝・内分泌」「喘息(ぜんそく)・アレルギー」、最近では「心身症」の診療を行っています。

 小児救急の分野では、救急医療センター、総合周産期母子医療センターや集中医療センターとも連携し、1次から集中治療の必要な3次救急にも24時間小児科医が対応できる体制をとっています=図2参照。救急医療センターを受診したこどもたちは、この10年間で2倍近く増え、2万人前後になっています。このうち20人に1人くらいが入院しています。

 また、夜間の診療に近隣の開業の先生方の援助を受けて、診療・教育が行われているのも特徴です=図3参照。ご担当の日の約25%の患者さんを診ていただいています。

 倉中の救急車による医療機関からの救急搬送も行っています。ヘリコプターでの救急搬送も受け入れており、これまでに広島、島根、鳥取からの搬送がありました。診療圏は、東は姫路、西は尾道、北は津山・新見、さらには島根、鳥取などに及びます=図4参照。こどもの森の範囲ですね。2000(平成12)年には厚生労働省の重要施策の一つである総合周産期母子医療センターの指定を受け、岡山県西部地区の新生児医療の中核となっています。

 一方、長期入院のこどもたちの学習面をサポートするために、倉敷市教育委員会の支援を得て、小学校および中学校の院内学級を併設しています(本シリーズ「森の中の学校(院内学級)」=昨年11月5日付メディカ=で触れました)。

こどもの森の医療資源

 こどもの森の中には、他の病院や診療所の小児科の先生や小児を診てくださる内科の先生がいます。また、こどもの入院できる病院が他にもあります。倉中もこどもの森の医療施設の一つです。集中治療が必要な重症なこどもたちも入院できる施設の一つです=図5参照。ただ、集中治療が必要な重症なこどもたちが入院できる施設は限られています。集中治療のできる施設がこどもたちの診療のために“連携”をしています。開業している医院の先生方との連携を“病診連携”、病院と病院との連携を“病病連携”とよんでいます。

 こどもたちが必要な医療を受けられるように、岡山県というこどもの森にある医療資源を有効に利用するために、病診連携、病病連携、さらには在宅医療との連携を今後も進めて行きたいと思います。このことが小児科診療を担う医師の負担の分担にもなり、過重負担の軽減にもつながると思います。このためには医療を受ける方々の理解と協力が必要です。みんなの医療資源です。みんなでお互いのために有効に使いたいと思います。

※倉敷中央病院のホームページ http://www.kchnet.or.jp/for_medicalstaff/ka03.aspx も見てください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年02月04日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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