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(56)急性心筋梗塞の地域連携パス 岡山大大学院循環器内科 伊藤浩教授(55) 目標設け治療や生活改善 再発防止へ多職種スクラム

「地域連携パスに取り組むことで、心筋梗塞や動脈硬化予防における岡山県の医療レベルは確実に向上する」と話す伊藤教授

 日本人の死因で、がんに続いて多い心臓疾患。厚生労働省の2011年人口動態統計概況によると、死因別死亡総数の15・6%(19万4926人)を占め、うち5分の1超(4万3265人)が急性心筋梗塞による。

 詰まった動脈を広げて血栓を取り除くカテーテル治療が普及し、動脈硬化が引き起こす虚血性心疾患の救命率は大きく向上した。「にもかかわらず、心疾患は死因の第2位。循環器系の基礎疾患を抱える人がいかに多いかを示している。手術で血流を再開して終わり、では済まない」。救急医療の現場で20年以上、心疾患の診断を続けてきた伊藤。手術で一命を取りとめながら再発して亡くなる患者を何人も見てきた。

 急性心筋梗塞で心臓は大きなダメージを受ける。冠動脈が詰まると酸素が供給されず、心筋が壊死(えし)するためだ。しかも「発症した時点で、大半がびまん性(広範囲の)動脈硬化の病変を抱えている。日常生活に復帰できても、生活習慣を根本的に変えなければ再発・死亡のリスクは高まる」。肝心なのは生命予後を改善すること、すなわち再発予防のための「2次予防」と伊藤は強調する。

 急性期病院で治療を受け自宅に戻った後も、地元のかかりつけ医療機関や薬剤師、理学・作業療法士、管理栄養士ら多職種が連携し、患者の治療やリハビリ、生活習慣の改善に努める―。岡山県は、そうした予後の改善・再発防止を目指すシステムを4月にスタートさせる。

 それが急性心筋梗塞の「地域連携パス」。県内の医療機関、関係団体がこぞって参加する全県的な取り組みは全国初という。伊藤は連携パス実施へ、県が昨夏立ち上げた県急性心筋梗塞医療連携体制検討会議の会長。県内の急性期病院や医師会、看護協会、薬剤師会など15団体で構成され、伊藤はパスの意義を説き、体制づくりに尽力してきた。

 患者に渡し、医療機関などと治療や生活管理に取り組むための冊子「安心ハート手帳」も作成。急性期病院やかかりつけ医、リハビリ施設などが治療の内容や目標、スケジュールを共有し、継続して質の高い医療を提供できる。「目標を設け達成することが重要。患者は自覚を持って生活改善に努めてほしい」

 伊藤は臨床の第一線で働きたいと大阪大大学院修了後、関西では循環器臨床の専門病院として知られる桜橋渡辺病院に勤めた。超音波画像診断の専門家として週4、5回の外来をこなし、夜間の呼び出しにも対応。文字通り24時間態勢で救急医療に向き合った。

 一方、「研究なくして臨床なし」という病院の方針から、学会発表にも積極的に取り組んだ。心筋梗塞では心筋の壊死とともに毛細血管が破壊され、十分な血流が得られない部位ができる。その「no reflow」現象の仕組みを実証し、専門誌に発表。国際的な評価を得た。

 臨床と研究、両方を追究したことで「臨床は数をこなすだけでは不十分。新しい方法に挑戦し改良を加え検証する。その繰り返しが患者にとって、より良い治療につながる」との考えに行き着いた。地域連携パスに取り組むのも「全ては患者のために」との思いが根底にある。(敬称略)

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 いとう・ひろし 浜松北高、大阪大医学部卒。1986年7月から循環器疾患専門の桜橋渡辺病院(大阪市)勤務。内科部長など経て、2007年4月から同病院心臓・血管センター長。09年4月から岡山大大学院医歯薬学総合研究科生体制御学講座(循環器内科)教授。浜松市出身。

 急性心筋梗塞 心臓の血管が詰まって心筋に酸素や栄養が行き渡らなくなり、機能が低下する病気。胸が圧迫されるような強い痛みや息苦しさのほか、背中やみぞおちの痛み、頭痛、めまいといった症状が出ることもある。高血圧や高脂血症、糖尿病、肥満の人、たばこを吸う人などがかかりやすい。年間約15万人が発症すると推計されている。

 地域連携パス(クリティカルパス) 良質な医療を、地域で効率的かつ安全・適正に提供するために開発された診療計画書。病気別に発症から治療、リハビリ、在宅療養まで、複数の医療機関・施設で役割分担し事前に診療内容を患者に提示・説明することで、患者は安心して医療を受けることができる。岡山県では、急性心筋梗塞を含む「四大疾病」のうち脳卒中、糖尿病、がんで既にパスを作成。国は2008年に脳卒中、10年にがんで、一定の基準を満たしパスを導入した病院の診療報酬加算を認めている。

 外来 伊藤教授の外来診療は、月・木曜日午前。かかりつけ医の紹介状が必要。


岡山大学病院(循環器内科)

岡山市北区鹿田町2丁目5の1

電話 086―223―7151(代表)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年02月18日 更新)

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