文字 

大腸憩室症 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院副院長 嶋村 廣視

 しまむら・ひろし 金光学園高、岡山大医学部卒。福山市民病院、水島第一病院、岡山大学付属病院などを経て、1997年から現職。大腸肛門病学会専門医、消化器内視鏡学会専門医。笠岡市出身。51歳。

【図2】憩室のエックス線写真(嶋村副院長提供)と【図3】憩室の内視鏡写真(嶋村副院長提供)

 「大腸憩室(けいしつ)症」という病気をご存じでしょうか? 昨年来日予定だったロックギタリストのエディ・ヴァン・ヘイレン氏が「大腸憩室炎」の手術で延期になり、ファンを心配させました。幸い順調に回復し、今年の公演は問題ないようで何よりです。

大腸憩室とは

 「憩室」とは管腔(かんくう)の内壁の一部が外側に向かってポケット状にとび出したもので、食道・胃・十二指腸・小腸など他の消化管や気管や膀胱(ぼうこう)などにもみられる状態です。その中でも「大腸憩室」は頻度が多く、大腸検査を行うと10人に1人くらいの頻度で見つかります。従来欧米人に多く、日本人にはあまりみられませんでしたが、最近は増加しています。食事の欧米化、とくに食物繊維の摂取量の減少と密接な関係にあると考えられています。以前は日本人では盲腸や上行結腸など、大腸の右側に多くでき、欧米人では大腸の左側に多いという傾向がありました。しかし、食事の欧米化や高齢化に伴い、日本でも大腸左側の憩室が増えています。

 「憩室」には腸壁そのものがとび出している真性憩室と腸壁の筋層のすきまから腸粘膜がとび出す仮性憩室の2種類ありますが、大腸憩室の場合にはほとんど後者の仮性憩室です。腸管の内圧の上昇に伴い大腸壁の血管などが通る筋肉層の弱い部分から粘膜が脱出して憩室が生じると考えられています=図1参照

症状について

 ふつうは無症状ですが、便がつまったりして炎症を起こして「大腸憩室炎」となると腹痛や発熱をきたします。また、血管が粘膜のすぐ下を通っていますから「下血」(肛門から血液が出ること)の原因にもなり、ごくまれに急に大出血しショック状態になります。盲腸など右側の大腸の憩室炎は急性虫垂炎と症状が似ていて、鑑別が困難なこともあります。検査で大腸に憩室があるといわれた方は、このような病気を起こすかもしれないので、腹痛や下血で病院を受診した際の問診で大腸憩室があると(わかればその部位も)申し出ていただくと診断の助けになります。

症状について

 多くの場合は検査で偶然発見されます。胃のバリウム造影検査の後や注腸エックス線検査=図2参照=または大腸内視鏡検査=図3参照=を受けたときにみつかることがよくあります。

 腹痛や発熱で受診し診察の結果「憩室炎」を疑うときは、まず腹部CT検査や超音波検査で炎症の程度や部位を確認し治療を行います。その後症状がなくなってから注腸造影検査や大腸内視鏡検査を行って診断を確定します。

 「下血」の場合はまず内視鏡で出血の部位や程度を確認し(出血の量によっては確認困難なこともありますが)、その後腸管の前処置を行い他に出血するような病気(ポリープや、がんなど)がないかどうか、出血は止まっているかなどを全大腸内視鏡にて確認します。

治療について

 「大腸憩室症」は悪い病気ではありません。たとえ憩室がたくさんできていても、症状がなければ治療は必要ありません。「憩室炎」は、放っておいて重症化すると腹膜炎に進展することもあり、抗生物質による治療が必要です。軽症の場合は外来で内服や点滴で治療可能な場合もありますが、炎症が強ければ入院で絶食の上点滴を行います。また、穿孔(せんこう)といって憩室に孔(あな)があいたり、腹膜炎を起こすと緊急に手術しなければなりませんが、幸い冒頭のヴァン・ヘイレン氏のようなケースはあまり多くありません。なんども憩室炎をくり返すと、大腸が細くなったり癒着を生じたりして、便やガスの通過が悪くなることがあり、便秘や腹部の膨満感が続いたり、大腸内視鏡検査の挿入が困難になったりします。

 大腸憩室からの「出血」は多くは間欠的な出血で7〜8割が自然に止血しますが、出血の程度が重度の場合やくり返す場合には大腸内視鏡による止血処置を行うこともあります。入院治療となることが多く、輸血が必要となる場合があります。

日常生活のこと

 大腸憩室症があっても、日常生活の特別な制限はありません。ただ、比較的繊維分の多い食事の摂取を心がけるとともに、便秘をしないよう便通のコントロールを行うことは大切です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年03月04日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ