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(58) 褥瘡 笠岡第一病院 岡博昭副院長(57) 皮弁移植し患部再建 陰圧療法で治癒早める

陰圧閉鎖療法で使う装置を手にした岡副院長。「褥瘡が治り、患者さんや家族から感謝された時はうれしいですね」と語る

 褥瘡(じょくそう)といえば難しそうだが、床擦れのことである。病などで図らずも車いす、寝たきり生活を余儀なくされた人に生じやすい。高齢社会にあって、家族をも苦しめる疾患に他ならない。

 岡はこの臨床歴が四半世紀のエキスパート。「発生率は病院や施設で約1・5%、在宅療養だと約4%だが、なおざりにはできない」と言う。重症化すれば、敗血症やショック状態となり命に関わるからだ。

 傷が浅い場合や一部の深い褥瘡は患部を洗浄し、軟こうを塗ったり、被覆材で覆ったりする保存的治療で1~2カ月もすれば治る。が、筋肉や骨まで細菌感染が及べば手術を要する。CT(コンピューター断層撮影)検査で深部の壊死(えし)組織を確認し、傷口を切開して除去する。

 ここから佳境の「陰圧閉鎖療法」に入る。2010年4月に公的医療保険が適用され「体の自然治癒力を引き出し、治療効果は画期的」と評す。

 まず傷にスポンジ状の物を当て、被覆材をかぶせて密閉する。そこに小さな穴を開けて吸引用のチューブをつなぎ、陰圧状態をつくる装置と接続させる。

 これで患部を保護しながら、過剰な滲出(しんしゅつ)液や感染を招く老廃物を吸引し排除。併せて、傷を治すためにできる肉芽(にくげ)組織の形成を促す。「かつては傷口に当てたガーゼがベトベトになり、治るまでに数カ月かかったのが、ほぼ半分の期間で済む」

 経過を見ていくが「病態は患者ごとに千差万別。重症で改善が見込めないケースも出てくる」。そこで行うのが、皮弁を使った再建手術だ。

 周辺の皮膚を皮下組織も含めて移植、縫合し傷をふさぐ。豊富な知識と経験から皮弁の形、大きさなどを決め、患部を精緻な手技で再建。手術は約2時間半、2週間後に抜糸する。

 昨年は褥瘡の新患約100人を診察し、陰圧閉鎖療法は15例、外科手術は51例。皮弁手術はこのうち13例を数え「末期がんや重い認知症患者には行えないが、健康な人でも月に1センチしか縮小しない傷を最短期間で治せる。これまでに移植組織が全壊死した例はない」と語る。

 とはいえ、治療は一筋縄ではいかない。褥瘡原因の圧力を取り除く体位変換、エアマットなど体圧分散用具の使用、糖尿病、慢性腎不全といった基礎疾患の治療、栄養状態の改善、排尿や便の衛生管理も欠かせない。「当院は栄養士、理学療法士らスタッフをそろえ、トータルケアができる」と強調する。

 笠岡第一病院で10年から、近隣の医療関係者を対象に褥瘡ケアの短期実習を始めた。「専門の執刀医が限られた中、他の病院や施設と連携し、地域の高齢患者さんたちを支えたい」。その輪は着実に広がりつつある。

 「口唇・口蓋裂手術などで患者さんの社会生活を手助けできる」と形成外科医に。川崎医大で同科初代教授の故・谷太三郎、第2代教授森口隆彦(現川崎医療福祉大特任教授)の薫陶を受けた。さらに日本褥瘡学会の治療ガイドライン初版(05年)の策定委員時代、同学会初代理事長で北海道大名誉教授の大浦武彦に指導を仰ぎ、躍進した。

 患者や家族には、明るく接する。褥瘡の苦しみを少しでも癒やしたい、その一念からである。 (敬称略)

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 おか・ひろあき 川崎医大付属高、同大卒、同大学院修了。三豊総合病院(観音寺市)、星ヶ丘厚生年金病院(大阪府枚方市)などに勤務。川崎医大形成外科講師、准教授を経て2008年10月から笠岡第一病院副院長・形成外科部長。日本形成外科学会専門医、日本褥瘡学会認定師。大阪市出身。学生時代はラグビー部主将でスクラムハーフを担当、現在も観戦を楽しむ。

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 褥瘡 ベッドや車いすで皮膚が圧迫され続け、血行が悪くなり、周辺組織が壊死する。骨盤中央の仙骨、尾骨、座骨、大腿(だいたい)骨上部外側の大転子、かかとなど、骨が出っ張った部分に多く見られる。皮膚が赤くなったり、潰瘍ができたりし、悪化すれば筋肉や骨まで損傷される。骨髄炎や敗血症を併発し、命の危険を伴う場合もある。

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 皮弁 血管のついた皮膚、脂肪、筋肉、骨、神経などの組織をいう。採取部によって大胸筋皮弁、腹直筋皮弁、大腿皮弁…と種類は多い。脂肪や筋肉などは、移植後腐らないようにするため、栄養を運ぶ血管をつけておく必要がある。褥瘡手術では主に、皮膚と脂肪からなる穿通枝(せんつうし)皮弁を用いる。一方、皮膚だけ移植する植皮の場合は、血管をつけなくても生着する。

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 外来 岡副院長の外来診察は月・水・金・土曜日の午前9時~正午と、火曜日午後2時~5時。

笠岡第一病院

笠岡市横島1945

電話 0865―67―0211

メール info@kasaoka―d―hp.or.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年03月18日 更新)

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