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環境の変化とメンタルヘルス 万成病院副院長 清水義雄

しみず・よしお 倉敷古城池高、岡山大医学部卒。岡山県精神科医療センター、米国ロックフェラー大留学、国立病院機構岡山医療センターなどを経て、2009年から万成病院に勤務。日本精神神経学会指導医・専門医、精神保健指定医。

愚痴でストレス解消を

 もうすぐ4月がやってきます。学校や職場などの環境が、大きく変化することが多い時期です。希望の学校に合格した、昇進して仕事が始まるのが楽しみだという場合もあれば、自分にとって意に沿わない環境での生活がはじまるため、不安な気持ちでいっぱいだという場合もあるでしょう。しかしどちらの場合でも、ストレスがかかるという意味においては変わりがありません。

 Aさんは40歳の男性で、不眠を主訴に外来を受診しました。会社の上司が退職し、その代わりにAさんが昇進して管理職となりました。元来仕事に意欲的な方で、以前と比べて勤務時間や負担が増えたものの張り切ってこなしていました。しかし次第に寝つきが悪くなり、深夜に目が覚めることが増えてきました。

 外来受診時に今の仕事が大変なのではないのか尋ねましたが、別に大変ではない、睡眠が足りないためか翌朝すっきりしないし、集中力が無くなっている、よく眠ることができれば良くなると思うと言って、睡眠導入剤のみの処方を受けて帰られました。

 2回目の受診時には、何とか眠れるようにはなったけれど、気分はまだ良くないと言いました。もともと好きな将棋もまったく興味が持てないし面白くない。毎月楽しみにしていた将棋の雑誌も興味が湧かず読む気になれないそうです。医師にも慣れたのか、社長から毎日のように仕事を催促されること、部下が休職したため自分の負担が増していることなども話してくれました。抗うつ薬を併用して外来通院を続けることで、時間はかかりましたが調子を取り戻していかれました。

 自分のこころや体がしんどい状態であるということに、気づきやすい人と気づきにくい人がいます。また、それを言葉で上手に表現できる人と苦手な人がいます。外来の診察室で職場の事を話しても、直接その職場の環境が良くなるわけではありません。しかし、話しただけで気持ちが楽になったと言う方は少なくありません。家族や友人に話を聞いてもらって、上手にストレスを解消されている方も多くおられることでしょう。愚痴をこぼすことができるというのは、ストレスをためない、乗り切る、とても大事な技能であると思います。環境が変化する時には、自分の感情の変化に早く気が付いて、それを適切に言葉で表現することで、安定した精神状態を保ちながら、まわりの人たちとも良好な関係を築いてゆくことが必要となります。

 Aさんのような真面目に頑張る人が、我慢を続けて自分を追いつめて自滅してしまっては、Aさん本人もつらいことですが、結局は会社や社会にとっても大損害です。「仕事は真面目にしすぎたらいけない」とAさんは笑って言いました。今気を付けていることを尋ねると、仕事に優先順位をつけてできるだけ定時に退社する、余暇に体を動かす、職場の人だけではなく家族ともよく話をすることですと答えてくれました。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年03月18日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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