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(60) 肝がんのラジオ波焼灼術 岡山済生会総合病院 藤岡真一肝臓病センター長(49) 電極針刺し熱凝固 抗ウイルス剤で再発予防

電極針を手にした藤岡センター長。「ラジオ波焼灼術は心臓や腎臓病があり、全身麻酔ができない高齢者にも行える」と話す

 「沈黙の臓器」。ゆっくりと病が進行し、発がんしても症状がにわかに現れない特性から、肝臓はそう呼ばれる。藤岡がこの専門医となったのは、肉親が命を奪われたことによる。

 もともとは中学か高校の数学教師志望だった。岡山大医学部に進学後も、夢を捨てていたわけではない。が、3年の時、祖父をB型肝炎、肝硬変で亡くしたことが分水嶺(れい)となった。

 同大第一内科に入局後、B型肝炎ウイルスの潜在化、抗ウイルス療法の研究に打ち込む。故下村宏之(元倉敷中央病院消化器内科部長)、山本和秀(現岡山大消化器・肝臓内科学教授)の薫陶を受け、錬磨した知能と技で立ち向かうのが肝がんだ。

 国内がん死者の臓器別では4番目に多いが「治療法が進歩し近年、患者の生存率は伸び、死者数は減少傾向」と語る。

 その最たるものが1999年、国内に導入された「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)術」。手術に匹敵する根治術で「体の負担がより少ない。肝機能が悪く手術が難しい患者、高齢者にも行える」と話す。

 術式はこうだ。局所麻酔をかけ、電極針(直径約1・5ミリ)を皮膚から病巣まで刺す。両太ももに対極板を張り付けておき、ラジオ波発生装置を起動し5〜10分間ほど通電。針先の温度を約100度まで高め、がんを熱凝固、壊死(えし)させる。

 治療は約30分、入院は5日程度。「術後3時間で歩け、夕食も取れる」。簡単そうに思えるが、細心の注意と通算約1千例の経験に裏打ちされての業だ。

 というのも、誤って腸管や肺に穴を開けたり、血管を傷付けたりすれば命を左右する。故に安全なルートを事前に見極め、腹部エコー(超音波)で確かめながら慎重に針を進める。

 術後も2時間たてば採血し、出血などないか検査。翌日、MRI(磁気共鳴画像装置)かCT(コンピューター断層撮影装置)で焼灼具合を確認する。

 「難症例では、高精度の画像が得られるソナゾイド造影剤を術中に注射し、治療効果判定に最新のプリモビストMRIも用い確実に行う」。結果、術後の5年生存率は60〜70%という。

 適応は主にがんが3センチ以内、3個以下。焼灼は体の負担を考慮して1日1個とし、複数ある場合は5日ほど間隔をあける。「3センチ、3個以上で行う場合もあるが、他の治療法が可能なら安全・確実性が高い方を選ぶ」

 そう言えるのは岡山済生会総合病院の強みからだ。内・外・放射線科の連携が良く、症例数が全国上位の焼灼術(昨年135例)のみならず、手術(同42例)なども高い実績を誇る。

 ただ、肝がんは再発しやすい。「焼灼術は繰り返し行えるが、再発を抑えるには原因を取り除く療法が重要」と説く。

 がんの原因がB型肝炎ウイルスなら、核酸アナログ製剤を使う。「焼灼術の後、毎日内服していれば、生存期間の延長ばかりか再発予防になる」と言う。

 C型肝炎ウイルスが原因の場合は、インターフェロンを中心とした抗ウイルス療法になるが「来年末には、ウイルスを陰性化できる画期的な内服薬DAAが使われだす」とみる。

 この道24年。「パッション(情熱)」を大切にする医家が目指すは「西日本一の肝臓病センター」である。(敬称略)

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 ふじおか・しんいち 岡山一宮高、岡山大医学部卒。赤磐郡医師会(現赤磐医師会)病院、四国がんセンター(松山市)、米国立衛生研究所留学などを経て岡山大病院中央検査部助手。2005年から岡山済生会総合病院に勤め内科医長、09年主任医長、10年4月から肝臓病センター長を兼ねる。同大消化器・肝臓内科臨床准教授。日本肝臓学会指導医・専門医。趣味は音楽鑑賞。同大付属中から大学まで卓球部に所属し、高校、大学では主将を務めた。

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 肝がん 国内死者はがんの中で肺、胃、大腸に次いで多く、男性は女性の約2倍に上る。2011年は3万2000人弱が亡くなり、罹患(りかん)数は年間約4万5000人。

 肝細胞がんが大半を占め、慢性肝炎、肝硬変から発症することが多い。原因の約6割がC型肝炎ウイルス、約1割がB型肝炎ウイルス。近年はアルコール性や非アルコール性脂肪肝炎、糖尿病や高血圧、脂質異常症を合併した症例が増えている。

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 外来 藤岡センター長の外来診察は月・水曜日(祝日休診)の午前8時半〜午後4時。予約が必要。問い合わせは内科(086―252―2213)。

岡山済生会総合病院

岡山市北区伊福町1の17の18

電話 086―252―2211

メール koekiku@okayamasaiseikai.or.jp

ホームページ http://www.okayamasaiseikai.or.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年05月06日 更新)

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