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虚血性大腸炎 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院 診療部長 鈴木 健夫

すずき・たけお 英数学館高、香川医科大卒。香川医科大付属病院、愛媛県立中央病院などを経て2006年から現職。日本外科学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。

【図2】虚血性大腸炎の内視鏡写真(上)と正常な大腸の内視鏡写真(鈴木診療部長提供)

 下血、腹痛を伴う病気にはさまざまありますが、その中の一つが虚血性大腸炎です。急激に激しい腹痛、下血を伴って発症することが多いのですが、ほとんどは自然に治癒する急性の病気です。中高年の方に起こりやすい疾患ですが、若い方に起こることもあります。

原 因

 腸管に栄養を送っている血管の血流障害が原因で、その成因として血管側因子と腸管側因子があります。

 血管側因子としては高血圧、糖尿病、高脂血症、老化などによる動脈硬化や膠原(こうげん)病による血管炎、腸管側因子としては便秘や下痢などによって腸管内内圧の変化が起こり、腸への負担がかかることが考えられます。

 動脈硬化が起こりやすい中高年の方に発症しやすく、血流障害の程度、病変部位や発病速度によりさまざまな経過をたどり、一過性のものから腸管が壊死(えし)してしまうものまであります。強い動脈硬化や血栓症により、腸に栄養を送る腸間膜動脈がつまるとさらに症状が重篤化する急性腸間膜動脈閉塞(へいそく)症という特殊な病気もあります。

診 断

 発症状況や症状、年齢などから診断は可能ですが、大腸憩室症、薬剤性腸炎、感染性腸炎、クローン病などとの鑑別が難しいこともあり、大腸内視鏡検査、注腸レントゲン検査で確定診断を行います。

 症状としては突然の激しい腹痛、下血、下痢です。典型例では左下腹部痛、比較的多量の新鮮血の下血がみられます。気分不快、嘔吐(おうと)、発熱を伴ったり、直前に便秘をしていることも多くあります。

 病変は左下腹部にある大腸(下行結腸からS状結腸)に好発し(よく発生し)、同部を圧迫すると痛みを生ずることも多く見られます=図1参照。血液検査で炎症反応が上がることもありますが、早期診断には発症初期の大腸内視鏡が有用で、区域性の縦走・帯状の発赤粘膜、びらん、潰瘍を認めます=図2参照

 注腸レントゲン検査では病変部に一致して母指圧痕像(母指で押したような像)を認めます。その他、腹部超音波検査や腹部CT検査などを行うこともあります。

分類および治療

 (1)一過性型(急性期)

 腸管の安静が治療の基本です。軽症例では、整腸剤や食事指導(流動食・粥(かゆ)食摂取、スポーツドリンクなどによる十分な水分補給)による自宅療法で自然に治癒します。腹痛に対しては鎮痛剤、鎮痙(ちんけい)剤を投与します。

 中等度異常(強い腹痛や血便の持続、炎症反応の高値、内視鏡像で広範な病変や浮腫性狭窄(きょうさく)が強い病変など)の場合は、入院して食餌制限、補液などの保存的治療を行い、場合によっては抗生剤を使用することもあります。

 (2)狭窄型(治癒期)

 頻度は低いのですが再発することもあり、緩下剤などでの排便コントロール、便秘に気をつけることが大切です。

 狭窄型は急性期を過ぎた後に大腸に狭窄が残るものをいい、腹痛や下痢が続くことがあります。狭窄が高度で腸閉塞症状や出血を繰り返す場合には手術が必要になることもあります。

 (3)壊死型

 壊死型は比較的まれですが、起こると重篤で、症状が急速に悪化していき予後不良な場合もあります。激しい腹痛や腹膜炎症状は壊死型の危険性があり、腸に穴が開いたり、敗血症やショック状態を合併して死に至る場合もあるため、壊死した大腸を切除する緊急手術を要する場合もあり、注意が必要です。内視鏡検査で全周性の黒暗色の粘膜を認め、CT画像では局所の著明な浮腫を認めます。

日常生活で注意すること

 日常生活で特別に注意することはありませんが、腸に負担がかからないように食物繊維の多い食事や運動を心がけ、便秘しないように良い排便習慣を保つことは大切です。

 突然の腹痛、下血の症状を認めた場合、虚血性大腸炎の診断は比較的容易ですが、大腸がんなどの怖い病気、大腸憩室症などが隠れていることもあり、自己診断は危険ですので、消化器専門医を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年05月06日 更新)

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