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(2)救急とCCU(心疾患集中治療室) 倉敷中央病院循環器内科部長 多田毅

ただ・たけし 淳心学院高、岡山大医学部、同大学院卒。聖路加国際病院、倉敷中央病院、尾道市民病院、岡山大学病院を経て、2010年4月倉敷中央病院循環器内科医長、13年5月から現職。日本内科学会認定医・専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医。

(写真上)【モービルCCU】高規格救急車に医師、看護師が同乗し、容態の急変にも対応しつつ迅速に搬送を行う(同下)【CCU回診】医師、看護師、薬剤師がチームで診療に当たる

 倉敷中央病院心臓病センターは「倉敷で世界最高レベルの地域医療を」との理念のもとに、日々の医療に従事しております。地域の患者さんに症状が出たとき、いつでもすぐに受診ができ治療が受けられるよう、循環器内科では24時間態勢で救急患者さんを受け入れております。

 循環器疾患には急性心筋梗塞、不安定狭心症、急性心不全、肺塞栓症、大動脈解離症といった急性疾患が多く、かついずれも可及的早期の検査、治療を受ける必要があります。特に急性心筋梗塞、不安定狭心症といった急性冠症候群と呼ばれる疾患では、できるだけ早期に心臓カテーテル検査を受け、引き続き冠動脈の血流を改善させる治療(冠動脈インターベンション)を受けることが重要です。

 当院では昨年1年間で600件以上の緊急心臓カテーテル検査を行い、400件以上の緊急冠動脈インターベンションを施行いたしました。患者さんの病院到着から血流再開までの時間の短縮は急性心筋梗塞患者さんの病院内死亡率を有意に下げることが知られており、夜間で治療担当医師、看護師、生理検査技師が病院内にいない場合にも、呼び出しから20分以内に全てのスタッフが病院に到着し、血流再開通までの時間をできるだけ短縮するよう日々努力をしています。

 また救急医療として常時患者さんを救急外来で受け入れるだけではなく、心臓専用の専門医師同乗救急車=モービルCCUを導入し、地域の先生からの要請に従って24時間態勢で迎えに行っております。循環器内科専門医と救命救急センター看護師が同乗し、救急蘇生に必要な用具や薬剤を装備しておりますので、搬送中の患者さんの急変に的確に対応でき、また病院と連絡を取りつつ搬送することによって早期の治療開始が可能になります。

 前述の心臓カテーテル検査が必要な患者さんの場合は救急センターを経由せず直接カテーテル検査室に搬入し、1分でも早く必要な検査・治療を行います。モービルCCU出動件数は年間400回以上、出動範囲は南は愛媛県、香川県、西は広島県東部にまで及びます。岡山市、津山市にも優秀なカテーテル検査および治療を行う病院がありますので、時間的要素に鑑み岡山県東部には出動しておりません。

 患者さんを救命救急センターに受け入れ、必要な検査、治療を行った後、重症で厳重な管理が必要となる患者さんがおられます。入院後これらの患者さんのケアを行うのがCCU(心疾患集中治療室)です。CCUでは血圧や脈拍など血行動態を24時間モニター監視し、重症患者さんに対して重点的に治療を行います。昨年1年間にCCUに入院した患者さんは約750人でした。うち急性心筋梗塞等虚血性心疾患の患者さんが約320人、急性心不全が約340人、肺塞栓症が約20人、大動脈解離症が約40人でした(重複例を含む)。

 急性心不全では、近年、高齢者の患者さんが増加しており、そういった患者さんに対し非侵襲的陽圧呼吸療法を使用する機会が増えています。顔と鼻を覆うようなマスクを用いて高濃度の酸素を機械的に陽圧をかけて肺に送り込む治療です。肺炎を合併したような喀痰(かくたん)の多い患者さんには不適当な場合もありますが、マスクのみによる酸素投与よりも高濃度の酸素が投与でき、気管挿管を用いた人工呼吸療法よりも体への侵襲が少なく、患者さんに負担が少ない治療です。

 肺塞栓症はおもに下肢の静脈にできた血栓が肺動脈に詰まり急激な血圧低下や低酸素血症が起こる病気です。飛行機で旅行をしたとき、座席でじっとしている間に下肢静脈にできた血栓が、飛行機を降りる際に血栓が移動して発症することがあり、エコノミークラス症候群と呼ばれることもあります。震災の際に車中に避難した方の発症が多かったことも話題となりました。治療は基本的には血栓を作りにくくする治療(抗凝固療法)を行いますが、重症例では血栓を溶かす治療(血栓溶解療法)やカテーテルを用いた治療を行います。

 大動脈解離症はおもに高血圧が原因で大動脈の内膜と外膜の間にある中膜が裂けその部分に血液が流れ込んでしまう病気です。急激な痛みとともに発症し、重要な臓器への血流が遮断されることがあり部位によっては緊急の外科的手術が必要となります。心臓血管外科と相談しながら最適な治療法を選択します。

 以上のようなさまざまな疾患に対し薬剤のみでは治療が不十分な場合、心臓のポンプ機能の補助を行う大動脈バルーンパンピング、経皮的心肺補助装置、肺機能の補助を行う人工呼吸管理、腎臓機能の補助を行う緩徐持続式血液ろ過等、さまざまな機械的サポートを用いて患者さんを治療いたします。看護師、リハビリ療法士、臨床工学技師、薬剤師らと共にチーム医療で患者さんのケアにあたっています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年05月20日 更新)

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