大腸がんの検査 川崎医大消化管内科学講師 川崎医大病院食道・胃腸内科医長 藤田穣
ふじた・みのる 英数学館高(福山市)、川崎医大卒。瀬戸内海病院内科(今治市)、秋田赤十字病院消化器病センター、国立がん研究センター中央病院内視鏡科、米国ピッツバーグ大学移植外科留学などを経て、2011年9月から現職。医学博士。
【図1】大腸内視鏡検査【図2】大腸がんの大腸内視鏡検査画像【図3】大腸CT検査【図4】大腸がんの大腸CT検査画像【図5】大腸CT検査での皮下脂肪、内臓脂肪量の測定(いずれも藤田講師提供)
便潜血検査
もっとも簡便な大腸がんのスクリーニング方法として便潜血検査があり、人間ドックや市町村が施行する大腸がん検診の方法として行われています。大便の中に混ざっている血液成分を検出する方法で、この検査で陽性と判定され、実際にがんと診断されるのは千人中3〜4人程度です。つまり、この検査はより精度の高い検査(2次精密検査)を受けていただく必要がある方を選別するための「拾い上げ」の意味合いがあります。しかし、出血が顕著でない大腸がんの場合は陰性と判定される可能性がありますので、陰性だからといって安心するのは禁物です。
近年の大腸がん検診全国集計では便潜血検査で陽性と判定され2次精密検査を受けた方の割合は約60〜70%にとどまっています。肉眼的な血便や腹部不快感などの自覚症状が出てから大腸内視鏡検査を受け、進行した状態でがんがみつかる場合もありますので、便潜血検査が2回施行のうち1回でも陽性の方は大腸内視鏡検査などの2次精密検査を必ず受けていただき、陰性の方でも2〜3年に一度は2次精密検査と同等の検査を受けていただく必要があります。
より詳しく調べる
川崎医大病院(倉敷市松島)では、大腸をより詳しく調べる方法として、大腸内視鏡検査、マルチスライスCTを用いた大腸CT検査、腹部超音波検査を行っています。
大腸内視鏡検査=図1参照=は、現時点でもっとも一般的で精度の高い大腸の検査で、便潜血検査陽性の場合の2次精密検査として第一選択となります。病変を直接視認することが可能であるため=図2参照=、病変の形態や色調などの詳細な観察や組織採取(生検)が可能で、その場で治療方針を決定することができます。しかし、内視鏡の操作や観察には術者の熟練を要し、腹部手術後の腹腔(ふくくう)内の癒着などにより、検査を受けられる方によっては挿入時に苦痛を伴う場合があります。また、検査前の前処置(2リットル近い下剤を内服すること)がつらいと感じられる方もおられます。
大腸CT検査(CTコロノグラフィー)は、脳や肺、肝臓や膵臓(すいぞう)などの臓器を詳しく調べるときに用いるCT(コンピューター断層撮影)検査=図3参照=で撮影した腹部断層画像を特殊な画像解析ソフトで大腸を立体画像(いわゆる3次元画像)として構築し、がんやポリープの有無を調べる検査です。実際に大腸内視鏡を挿入しなくてもそれに類似した画像が得られる=図4参照=ので、検査時の苦痛はほとんどありません。また、肝臓や膵臓、腎臓などの腹腔内臓器の検査や、皮下脂肪や内臓脂肪の量も同時に測定できるという利点もあります=図5参照。ただし、大腸内視鏡検査とほぼ同様の前処置を必要とします。
人間ドックでも行われる腹部超音波検査(腹部エコー)は、大腸内視鏡検査や大腸CT検査と違い、検査前の下剤の内服は不要で、苦痛や放射線被ばくの心配はありません。しかし、術者の十分な修練と経験を要します。
大腸内視鏡検査が基本
大腸CT検査や腹部超音波検査は、小さいもしくは丈の低い病変の検出には限界があります。また、がんやポリープの存在が疑われた場合は、再度大腸内視鏡検査で確認する必要があります。したがって、現時点では大腸の精密検査は大腸内視鏡検査が基本となります。大腸CT検査や腹部超音波検査は、高齢や、心臓や肺などに持病があり大腸内視鏡検査の施行が困難と判断された方、腹部手術などに起因した腹腔内の癒着や便秘などにより腸の折れ曲がりが急峻(きゅうしゅん)で、大腸内視鏡の挿入が困難な方に選択されることになります。しかしながら、これらの検査はすべての医療機関で行われている検査ではありませんので、事前の確認が必要です。
これらの検査に加え、まだ研究段階ですが、小腸の検査に使用されているカプセル内視鏡が大腸用に開発が進められています。
大腸がんの決定的な予防法は確立されておらず、早期発見・早期治療がもっとも効果的な「予防」となります。1回受けたからと安心せず、定期的に大腸の検査を受けられることが望まれます。
(2013年05月20日 更新)