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(上)事前にしておきたいこと 岡山済生会総合病院看護外来室 佐藤真理子さんに聞く

佐藤真理子・慢性疾患看護専門看護師

東日本大震災から3カ月後の岩手県釜石市内の避難所=2011年6月

 災害はいつどこで起こるか分からない。東日本大震災後、その感はいっそう増した。「だからこそ、備えは必要です」と岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)看護外来室の慢性疾患看護専門看護師・佐藤真理子さんは言う。佐藤さんに聞いた糖尿病患者のための災害マニュアルを2回に分けて紹介する。

自分を守る情報

 被災時、自分は糖尿病患者で、どのような治療・療養を、どのように行っているか他者に正確に伝える。もっと具体的に言えば、インスリン自己注射や飲み薬の名前に始まり、1日4回自己注射を行い、薬を朝夕食後の2回内服しているといった患者自身の情報を、医療救護班の医師らに詳しく説明する。これが最初の心得。

 「糖尿病などの病気を抱えて生活されている方は、食料や生活用品に加え、自分を守る医療用品と“情報”の準備が重要になります」と佐藤さん。とはいえ自身の情報を漏れなく詳細に記憶するには限界がある。災害時のパニックのさなか気が動転し、冷静な状態ではいられないことも容易に想像がつく。そこで「携帯カードや糖尿病連携手帳、お薬手帳をうまく活用してください」と助言する。

 携帯カードや手帳は医療機関を受診すれば入手できる。患者氏名、住所、電話番号、受診医療機関名、主治医名、カルテ番号、治療内容などの情報を書き込み、避難用袋に入れておけば非常時に役立つ。

 家族が離れて暮らしている場合は緊急時の連絡方法(携帯電話の災害用伝言板サービスなど)を決め、必ず練習する。また災害時、避難所が満員になることを予想し、1カ所ではなく2、3カ所の避難所をあらかじめ家族で確認する。

避難用品

 飲料水、食料など糖尿病患者に限らない一般的な避難用品の他、先に述べた携帯カードや糖尿病連携手帳、お薬手帳、保険証(それらのコピーでもよい)を準備する。さらに常用薬の予備、インスリン自己注射セット(インスリン製剤、注射器、注射針、消毒綿)、血糖自己測定器(穿刺(せんし)器具、センサー、消毒綿)なども自宅の分かりやすい場所に置いておく。

 保冷用の断熱バッグも必需品だ。インスリン製剤は熱に弱い。30度以下(種類によっては25度以下)で保管しなければ成分が変わり、薬の効きが悪くなる。インスリン製剤に限らず、GLP―1受容体作動薬(インスリン分泌を促進する注射薬)も保管温度に留意しなければならない。

 阪神淡路大震災の事例からみて、災害時に医療機関が診療機能を回復するまでの備えとして、糖尿病患者は薬剤のストックを2週間分は持っておくべきだという。「主治医との話し合いの下で、薬を少し多めに処方してもらう必要があります」と佐藤さんは注意を促す。薬剤は使用期限を必ず確認し、期限の近づいたものから使うようにしておく。

低血糖対策のブドウ糖

 α―グルコシダーゼ阻害薬(食後過血糖改善薬)という飲み薬がある。食直前に服用し、腸内で食物中の炭水化物をブドウ糖に分解する酵素の働きを抑え、食後の急激な血糖上昇を抑える。

 この薬を飲んでいる糖尿病患者が低血糖になると、砂糖(ショ糖)を摂取しても吸収が遅れるため低血糖が改善しない場合があり、ブドウ糖が必要だ。

次回は被災したときの留意点を紹介する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年06月03日 更新)

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