文字 

(下)被災時に気を付けること 岡山済生会総合病院看護外来室 佐藤真理子さんに聞く

佐藤真理子・慢性疾患看護専門看護師

東日本大震災から6カ月後、就寝時間となり照明が徐々に落とされた宮城県石巻市の体育館の避難所=2011年9月

 前回(3日付メディカ)に続き、糖尿病患者の災害マニュアルについて岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)看護外来室の慢性疾患看護専門看護師・佐藤真理子さんに聞いた。

避難先での食事

 避難所などで配られる食べ物はおにぎり、菓子パン、乾パン、カップ麺などが多いと予想される。「味が濃い上に炭水化物が中心です」と佐藤さん。このような食品は血糖値を急激に上げる恐れがある。野菜類やタンパク質の多い食べ物(卵、肉、乳製品など)があればそちらを先に食べ、炭水化物を後にする。そうすることで、血糖の急上昇を抑えることができる。カップ麺の残り汁の飲み干しは塩分取り過ぎを招きやすく要注意。

 水分摂取は重要だ。糖尿病腎症(腎不全)などの合併症があり医師から制限された場合を除き、意識して小まめに水分を取るようにする。避難時はトイレの心配から水分を控えがちになるが、水分不足は便秘や脱水症状を招き、血糖コントロールが難しくなる。

 避難から数日たち食事が十分な量になったとき、留意すべきはカロリー過多。避難先で配られた食べ物を、周囲に気兼ねして残さず全部食べたりせず、必要量だけ食べる。佐藤さんは「例えば、おにぎりなら1個か2個までと普段から目安量を覚えておきましょう。避難の際、インスリン製剤や糖尿病の内服薬を持ち出せなかった最悪の場合は、食事量や内容に気を付けることが大事です」と注意を促す。

エコノミークラス症候群を防ぐ

 2004年の新潟県中越地震では、自宅を離れ車内で寝泊まりする被災者が、いわゆるエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓(そくせん)症)で死亡した。狭い座席に長時間座り、脚を動かさないでいたために同症候群を引き起こした。

 糖尿病で血糖コントロールが不安定な人は血管内皮が傷み、糖尿病でない人に比べて血行不良になりやすく、エコノミークラス症候群を発症する危険性が高い。佐藤さんは、同症候群を防ぐため避難先で、足首の曲げ伸ばしなどの運動=図参照=を1日に2〜3回行うことを勧める。「震災が起きると、いつまた余震が来るか分からず、恐怖心で心穏やかに過ごせない状況に陥ると思います。だからこそ、体を動かしたり屋外で深呼吸することは大事です」

ストレス管理

 ストレスは高血糖を助長する要因にもなりかねない。被災時の混乱のさなか、避難先に家族や好きな風景の写真があれば動揺も抑えやすいだろう。「その人が見て心落ち着く物品を一つ、避難袋に入れておきたい。ツボ押し棒や肩たたきのグッズでもOKです」と佐藤さん。大勢の声が響く避難所(例えば体育館)では睡眠(休養)を確保するための“耳栓”も必需品だという。夜間十分な睡眠が取れない場合、昼間の眠れる時に短時間でも眠り、睡眠時間を補うようにしたい。

 声を掛け合うことが気持ちの落ち込みを防ぐ。悩みは一人で抱え込まず、家族や周囲の信頼できる人に聞いてもらう。ストレスによる症状があれば医療救護班のスタッフに伝える。佐藤さんは「網膜症などの合併症がある糖尿病患者さんは特にですが、遠慮せずSOSを自分から出し、周囲に協力をお願いすることが大切」と強調する。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年06月17日 更新)

ページトップへ

ページトップへ