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お大事にしてください 川崎医科大付属川崎病院長 角田司

 私は消化器外科医でしたので、病院長を兼務してからも毎朝、一人で50人前後の患者さんの回診をし、いつも「お大事にしてください」の言葉をかけながら病室を出ていました。

 妹(福島県会津若松市在住)が急性骨髄性白血病と診断されたのは1999年9月で、2002年6月3日に亡くなるまで、約2年9カ月の闘病生活のほとんどを、宇都宮市にある栃木県立がんセンターの準無菌室で過ごしました。私は時々見舞いに行きましたが、最初の頃、30~60分くらいの面会を終えての帰り際に、いつも「頑張れよ」と言っていました。

 しかしある時、妹は私に「お医者さんもわかってないのね。患者さんはね、みんな治ろうとして精いっぱい頑張っているのよ。だから頑張ってよと言われてもこれ以上のことはできない」と言いました。そして「患者さんに言葉をかけるなら『お大事にしてください』が適切でないの」とアドバイスしてくれました。

 私はそれ以来、外来でも病室でも、患者さんには「頑張りましょう」や「元気を出してください」に替えて、「お大事にしてください」と声をかけています。特に外来では、看護師さんも同じように声をかけてくれています。

 患者さんは、常に正しい診断と高度の治療技術を病院に求めています。しかし一方で、病に陥った時、人間がまず何よりも必要とするのは、医療従事者の、患者さんに対する思いやりであり、優しさであります。医療に携わる皆さんには、患者さんに「お大事にしてください」の言葉をかけ、常に患者さんに寄り添う医療の実現にご尽力賜りますようお願い致します。

 ◇筆者紹介(つのだ・つかさ)長崎大医学部卒。同学部助教授、川崎医科大教授などを経て2003年から同大付属病院長、13年4月から現職。専門は消化器外科。福島県出身。岡山市在住。69歳。

(2013年6月6日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年06月06日 更新)

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