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キャッチボールを楽しんで! 川崎医大附属病院 心臓血管外科部長 種本和雄

 先日の新聞紙上に、福山のある企業の社長さんが、社内各部署にキャッチボール用のボールを配布されたことが報道されていた。社内でのコミュニケーションはキャッチボールのように行われるべきであり、キャッチボールであれば相手が捕りやすいような球を投げる必要がある、と社長さんは述べられていると記事に書かれていた。医療現場でももちろん、患者・家族とのコミュニケーション、スタッフ間でのコミュニケーションなど、このキャッチボールは我々の基本においておくべき考え方として本当に良い例えだと感じた。いくら良いメッセージを、心をこめて相手に送っても、受け取る側の立場や都合を考えないで送られたものであれば、相手にとっては受け取りやすいものではないし、帰ってくる球もまたこちらにとって受け取りやすいものにはならない。これではキャッチボールを楽しむことはできないし、やればやるだけストレスがお互いにたまっていく。したがって、お互いに少しでもストレスの少ない職場にしようと思えば、このキャッチボールが上手になることが一番の近道のように思える。キャッチボールだけではなくて、合いの手、ボケとツッコミ、阿吽(あうん)の呼吸など、相手との距離を自然な形で配慮しながら上手く進めていく技術が我々日本人には備わってきた。

 また一方では、相手に注意を喚起するため、相手の非を気づかせるためにきつい球(きつい言葉)をなげつけないといけない場面も残念ながら経験するところである。そういった場合にも、いくら相手に非があったとしても、投げつけられた相手はその球を拾って密かに持っていることを認識するべきであろう。投げた方の手からは球はなくなっているので、投げたことすら忘れてしまうこともあるが、投げられた方はずっと球を持ち続けていて、いつかは投げ返してやろうと思っているかもしれない。そういった状況は人間関係の上で大きなマイナス要因となるので、相手にきつい球をなげつけなければならなかった場合には、相手がその球を無理なく消化することができるような配慮も人間関係の中では必要であろう。

 余談ながら、最近は小中学生がキャッチボールをしているのをあまり見なくなった。我々が子供の頃には夢は村山、江夏のようになって王、長島をやっつけることだった。そのために一生懸命キャッチボールの練習をして、このことが相手の立場を思いやる気持ちを培ったのかもしれないと最近考えている。コンピューターゲームでの対戦がキャッチボールの代わりになってくれるのかどうか・・・、おじさんの悩みは尽きない。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年06月24日 更新)

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