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(64) 子宮筋腫の核出術 岡山大学病院産科婦人科 平松祐司科長(62) 機能温存しQOL向上 妊娠中の難手術受ける

「全国から岡山大学病院を頼って来てくださる人がいる限り、最後の砦として全力を尽くしたい」と患者に向き合う平松科長

 手掛けた中で最も多かった子宮筋腫の数は、一人の患者で237個。4時間近い手術の末、残らず切除した。平松は子宮の機能を温存しながら筋腫だけを摘出する「筋腫核出術」の第一人者だ。

 技術を頼って、全国から多くの女性が来院する。大半が一般の病院では受け入れてもらえない状態の患者。妊娠中や帝王切開と同時の筋腫切除など、がん手術より難しい手術も多い。「いわば最後の砦(とりで)。私たちが受けなければ、患者さんが頼れる病院はないかもしれない。どんな難しい症例でも断らない覚悟でいる」と言い切る。

 子宮筋腫はありふれた疾患だが、近年は晩婚化の影響で妊娠して初めて産婦人科を受診し、発見される女性が増加。腹が妊娠10カ月ほどに膨らんだ筋腫でも、単なる肥満などと軽く考えて手遅れになるケースがある。

 平松によれば、妊娠に筋腫が合併する割合は0・5〜3・1%とみられ、さまざまな合併症が現れる。頻度が高いのは切迫流産(17・1〜25・9%)や切迫早産(16・3〜39・9%)で、妊娠中に胎盤がはがれる常位胎盤早期剥離、胎児発育不全、血栓・塞栓(そくせん)症、子宮内胎児死亡などの増加も指摘されている。さらに通常の妊娠に比べ、陣痛異常は1・90倍、分娩(ぶんべん)時大量出血は1・58倍、帝王切開は6・39倍に高まる。

 岡山大学病院が昨年行った筋腫核出術は64例。平松が手掛けたのは24例で、妊娠中など難手術ばかり。特に妊娠・帝王切開時の核出術はリスクも多く、実施する病院はまれだ。

 筋腫核出術では腹腔(ふくくう)鏡手術なども行うが、筋腫が非常に大きいとか数が多い場合は開腹手術を採る。妊娠中や帝王切開時には胎児の位置や向き、胎盤の位置も考慮しなければならない。さらに、子宮収縮抑制剤を点滴するため出血しやすい▽筋腫を強く引っ張れない▽筋腫の底が胎児の入った薄い卵膜と接している―などから、手術は格段に難しくなる。帝王切開では大出血の恐れもある。

 個々の筋腫を出血を最小限に抑えてくり抜くには、筋腫のある「正しい層」を見つけることが不可欠。どこをどのように切開するかは「1例1例の手術に真剣に向かうことで、切るべき“ライン”が見えてくる」と、経験の重要性を強調する。

 「私の手術方法は教科書には載っていない。だが、患者が本当に求めるのはそんな技術」。筋腫核出術だけで千例以上、うち妊娠時や帝王切開を三百数十例も手掛けた経験が自信を裏付ける。

 35年前、研修医として広島市民病院に勤務。産婦人科医師6人で年間に約1200例の手術と、約1800もの出産をこなした。「今では信じられない数だが、随分鍛えられた」と振り返る。岡山大学病院では、子宮頸(けい)がんなどの治療・診断向上に尽くした関場香10代科長(現名誉教授)の薫陶を受けた。

 好きな言葉は「夢ある限り努力は無限」。趣味の書(雅号・円游)でも好んで書く。手術に改善の余地はないか、患者の負担をさらに減らすには…と常に考えているという。

 平松は、子宮がん・腺筋症手術も含めた子宮機能の温存にこだわる。「子どもが産めるかどうかは女性の一生に関わる問題。患者のQOL(生活の質)向上に尽くすことは、産婦人科医師の使命だ」。女性により良い一生を全うしてほしい、との思いが難手術に挑ませる。(敬称略)

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 ひらまつ・ゆうじ 倉敷青陵高、岡山大医学部卒。同助教授などを経て、2003年4月同大大学院医歯学総合研究科産科・婦人科学教室の12代教授(大学病院産科婦人科長)に就任。00年米ハーバード大ジョスリン糖尿病研究所留学。日本産婦人科手術学会、日本糖尿病・妊娠学会理事長なども務める。

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 子宮筋腫 子宮にできる良性腫瘍。月経がある女性の20%以上に見られる。腹部腫瘤(しゅりゅう)や過多月経、貧血、圧迫(頻尿、便秘、腰痛)などの症状が現れるが、子宮の外にできる漿膜(しょうまく)下筋腫は症状が少なく、筋層内や粘膜下は強く出る。筋腫があると不妊になりやすく、体外受精を必要とする割合も高くなる。粘膜下筋腫がある場合、着床率は約3分の1、妊娠率は約2分の1に低下。自然流産率は46.7%と、筋腫なし(21.9%)の倍に増える。

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 外来 平松科長の外来診療は、月・木曜日午前9時半〜午後2時。予約が必要。


岡山大学病院(産科婦人科)
岡山市北区鹿田町2丁目5の1
電話 086―235―7938
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月01日 更新)

タグ: お産岡山大学病院

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