文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 知っておきたい循環器の病気 岡山大大学院 草野研吾助教授、川崎医科大 吉田清教授が話す

知っておきたい循環器の病気 岡山大大学院 草野研吾助教授、川崎医科大 吉田清教授が話す

血管(冠動脈)の断面(図)

草野研吾氏

吉田清氏

 日本人の三大疾病は、がん、心臓病、脳卒中で、心臓病で亡くなる人は年間15万人を超す。食生活の欧米化や運動不足による生活習慣病が心臓病につながるケースも急増している。心臓病の怖さや最新の医療、予防法について、川崎医科大の吉田清教授(循環器内科)と岡山大大学院医歯薬学総合研究科の草野研吾助教授(循環器内科)に話してもらった。(文中敬称略)



■心臓病とは

 吉田 心臓病には広くいろいろな病気がある。後天性の心疾患で最も増えているのが虚血性心疾患。心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を送る冠状動脈が動脈硬化で狭くなり、心筋に十分な血液が流れなくなった状態だ。

 虚血性心疾患には心筋梗塞(こうそく)、狭心症などがある。血管は狭くなるが完全に閉鎖しないのが狭心症。心筋梗塞は、血管が狭くなる過程でプラーク(血管壁の沈着物)が突然破れて血栓ができ、完全に血管がつまった状態。心筋に血流がいかなくなるので心筋が死に、最終的に心不全に陥る。

 虚血性心疾患を引き起こす動脈硬化が増えた背景には、この五十年ぐらいの生活習慣の大きな変化がある。自動車の普及で動くことが減り、食事を含め生活が欧米型になった。もう一つの原因は高齢化。動脈硬化は血管の病気だから、長く血管を使っているとどうしてももろくなる。それに、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満といった生活習慣病が加わり、その病気にさらされている期間が長くなると、動脈硬化がさらに加速される。

 また、心疾患で高齢者に多いのが弁膜症。七十、八十歳代では約15%の人に発症している。

 草野 最近、不整脈の患者さんが増えている。虚血性心疾患や弁膜症は「器質的な病気」、つまり、どこか心臓の一部が傷んで心臓のポンプ機能がおかしくなる状態だ。一方、不整脈は、このひずんだ心臓が拡大したり、高血圧によって心筋に負担がかかることが原因で生じる「機能的な病気」だ。つまり、動脈硬化が進むことによって器質的な心臓の病気が増え、さらにその傷んだ心筋を背景に生じる不整脈も増えるということだと考えれば、不整脈の患者さんが増加しているのもうなずける。


■動脈硬化と診断

 吉田 動脈硬化について説明しよう。血管には内膜、中膜、外膜と三つの層があり、内膜の表面は内皮という細胞で覆われている。この血管内皮細胞は、血液が血管壁の中に染み込まないように保護しているが、血糖が高い、コレステロールが高い、タバコを吸っている、という障害があると壊れてしまい、血液成分のコレステロールや脂肪が血管壁の中に侵入、あるいは壁の表面にくっ付いて沈着する。その結果、壁が厚くなって内腔がだんだん狭くなり、壁も弾力性がなくなる。これが動脈硬化だ。沈着物はドロドロしたかたまりで粥腫(じゅくしゅ)と呼ぶ。

 動脈硬化の診断法として、まず血管造影検査がある。血管に造影剤を流して、エックス線で狭くなった血管の状態をみるが、かなり進行した段階でないと判別できない。

 初期の診断が可能なのは血管内超音波装置だ。足のつけ根などからカテーテルを送り込み、先端から超音波を発信して血管の断面画像をみる。血管造影で正常なケースでも、血管壁にコレステロールがたまっている状態がはっきり分かる。さらに血管内超音波で、プラーク(粥腫)が破れやすいかどうか組織性状が分かるようになった。プラークがぶよぶよで皮膜が薄ければ破れやすいが、中の脂質が少なく硬い皮膜で覆われていれば破れにくいので、プラークが破れて心筋梗塞になりやすい動脈硬化なのかどうかを予測できる。

 最近は、超音波で頸(けい)動脈の壁の厚みをみて、動脈硬化の程度を診断する評価法もある。患者さんにまったく負担をかけず、首の皮膚の直下なので非常にきれいな画像を得られる。また心臓の超音波では、冠動脈の血流を九割以上とらえられるようになった。

 超音波のメリットは、エックス線の被ばくがないこと。針を刺さず、痛みを与えないので、患者さんによりやさしい検査法といえる。さらに今後は、血管内超音波の約十倍の分解能力がある光干渉断層撮影法も活用されていくだろう。

 川崎学園の研究グループは昨年、血管内のNO(一酸化窒素)を特殊カテーテルで計測し血管内皮細胞の機能をみる測定法を確立。動脈硬化の状態をより正確に診断できるようになった。

■不整脈の治療

 草野 動脈硬化に起因する病気から起こる不整脈の一つに心房細動がある。ひずんだ心臓によって心臓の一部(心房)が大きく引き延ばされて起こり、七十歳以上では十人に一人以上が発症している。

 心房細動は、心臓のポンプ不全から心臓死を引き起こす病気ではないが、致命的な脳梗塞と強いつながりがあるので大変重要だ。心房筋が痙攣(けいれん)している状態なので、痙攣した所に血がよどみ、血が固まりやすくなる。そして大きな血栓をつくり、あるタイミングで心臓の外に押し出される。血栓が頭に飛べば致死的な脳梗塞になる。

 この心房細動の薬物治療の原則は、血栓の予防▽脈拍を整える▽心房細動自体を止める―の三つ。心房細動は動悸(どうき)などの症状が出ても出なくても、痙攣が続けば血栓ができるので、薬物治療は血栓の予防(脳梗塞の予防)が第一になる。特に高齢や高血圧、糖尿病、心臓の器質的な病気など、何かプラスアルファの要因を持った心房細動は血栓を起こす確率が高い。

 根治療法のカテーテルアブレーション(心筋焼灼(しょうしゃく)術)は、心房細動自体を起こさないようにする。薬が必要なくなるため非常に注目されている。具体的には、血管から心臓に入れた電極カテーテルの先端に高周波を流し、組織の一部を凝固壊死(えし)させて障害心筋の一部を取り除く。岡山大でも症状が強く、薬が飲めないか無効な人にはこの治療法を選択、初期の成功率は九割だ。

 心室細動、心室頻拍などは、ひずんだ心室筋から生じる致命的な不整脈だ。治療には、自動的に電気ショックで不整脈を止める「植え込み型除細動器」がある。

 これらの治療はひずんだ心臓自体を治すものではないが、次世代の治療法として期待がかかるのが遺伝子治療だ。心臓は障害を受けた部分が再生しないと言われているが、私たちの研究グループは、心臓の血管を新たに作ったり、傷んだ心筋を修復する働きを持つ特定のタンパク質が大人の心臓にあることを発見、米医学誌で発表した。複数の再生に関連するタンパク質を制御する機能も持つ遺伝子という点で高く評価された。

 細胞治療も再生治療の一つ。骨髄や血液中の幹細胞を取り出し、多機能をもつ細胞だけを濃縮して心臓の筋肉に打つと、新たな血管が生じたり、一部心筋が再生すると期待されている。岡山大でも着手しつつある。

■生活習慣病を予防

 吉田 戦後、米国をまねて「たくさん食べなさい」と言われて育った世代は肥満が多い。高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満といった危険因子を持ち、それが動脈硬化の原因となり、心筋梗塞や狭心症を引き起こしている。

 動脈硬化を防ぐには、生活習慣を根本的に変える必要がある。基本は動くこと。週三日、一回三十分程度の運動を習慣化したい。食事は高脂肪食を避ける。脂肪分が多く五分で満腹になるファストフードでなく、日本の伝統的な食事をゆっくりいただこう。喫煙もリスクが高い。生活習慣病をきちんとコントロールして規則正しい生活、適切な食生活を心掛けてほしい。

 草野 一般に広まりつつある「メタボリックシンドローム」は、内臓肥満症候群のこと。内臓脂肪の蓄積がもとになって、動脈硬化を促す生活習慣病の巣(そう)窟(くつ)になった状態だ。食事や運動で内臓脂肪を減らすことが、長い目でみれば心臓病の発生予防、不整脈を減らすという点で非常に大切だ。


 くさの・けんご 岡山大医学部卒。国立循環器病センター心臓内科レジデント、同大循環器内科助手、米国セントエリザベス病院留学など経て、06年から同大学院医歯薬学総合研究科・循環器内科助教授。日本循環器学会認定専門医、日本内科学会認定専門医。岡山市出身。40歳。


 よしだ・きよし 岡山大医学部卒。神戸市立中央市民病院循環器内科医長、米スタンフォード大客員教授など経て、1999年に川崎医科大循環器内科教授。2002年から同大付属病院副院長を兼務。日本心エコー図学会副理事長。岡山県瀬戸町出身。56歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年04月30日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ