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(65) 肝胆膵がん手術 岡山済生会総合病院 三村哲重副院長(64) 高度な技術で切除・再建 合併症対策を工夫

根治性と安全性にたけた手術を追求する三村副院長。「手術成績の向上、後進の育成に今後も寄与したい」と話す

 腹部中央で近接し、消化や代謝で関係が深い肝臓、胆道(胆管、胆のう)、膵臓(すいぞう)。消化器外科では「肝胆膵」とひとくくりに扱われる。三村は難度が高い、この領域のがん手術で名高い。

 通算症例数は肝がん約1050、胆道、膵臓がん各約350の計約1750。他施設で断られた難症例患者が頼ってくるほどの実力医だが、飛躍の原点は四半世紀前の出会いにあった。

 1988年、国立がんセンター(現国立がん研究センター)へ研修に赴いた。肝臓は血管が密集し、手術は出血との闘いで困難を極めていたが、新しい術法を開発し成功率を上げた名手がそこにいた。肝がん手術の世界的権威、幕内雅敏(現日本赤十字社医療センター院長)だ。

 幕内は術中超音波検査を導入し、肝臓が門脈(血管)の分枝に沿い8区域あることを解明。区域ごとに小さく切除する「系統的亜区域切除術」、「ICG(インドシアニングリーン)検査」などから肝機能の評価基準を考案した。三村は師から最新技法を学び、雄飛した。

 肝がん手術は、みぞおちから右脇腹をJの字に30センチ近く切開する。肉眼で見えないがんや血管を超音波検査で確認し、血管の遮断や開放、糸で細い血管を縛る止血を繰り返しながら病巣を切除する。まさに匠(たくみ)の技だ。

 「手術は最も根治性が高いが、がんの進展と肝機能の両面から安全性も考え、適否を決める」。適応は通常、腫瘍数が3個以内で肝機能が保たれている場合。このため術前には、色素を用いたICG検査に、核医学検査「アシアロシンチ」も行い、慎重に肝機能を調べる。

 膵がんは、治りにくいがんの代表とされる。早期発見が困難で進行して見つかる例が多く、手術できるのは患者の約4割。中でも「膵頭十二指腸切除術」は高度な技術を要する。

 膵臓右側の膵頭部にがんがある場合の術式で、腹部を約20センチ切開し、膵頭部や十二指腸、胆管などを摘出。続いて、残った膵臓、胆管、消化管を再建するのだが、問題は合併症だった。

 再建で小腸の空腸につないだ膵断面から、消化液(膵液)が漏れると感染症を起こす。そこで三村は膵管(直径2~3ミリ)を細密につなぐ「膵管空腸吻合(ふんごう)法」を確立し、93年に発表。化学療法も併用し、5年生存率を20%台から30%台に高めた。

 胆道がんでは、胆管が肝臓から出る部分に生じる「肝門部胆管がん」が特に難しい。肝臓の大量切除に加え、胆管や肝動脈、門脈の切除・再建を伴い、手術は10時間前後に及ぶ。

 ここでも、肝不全などの合併症対策を工夫。術前にカテーテル(細い管)を使い、肝臓の切除部分への血流を止める「門脈塞栓術」を行う。「これで切除部分が縮み、残す部分が肥大して安全に手術ができる」

 岡山済生会総合病院は中四国で屈指の手術実績を誇り、昨年は肝がん94例、胆道がん39例(胆管23例、胆のう16例)、膵がん23例の計156例。外科と内科、放射線科、形成外科などで取り組むチーム医療の重鎮が三村に他ならない。

 術前に手順を何度もイメージし、執刀に魂を注ぎ込んできた。今や難手術を「平常心」で行える達士である。(敬称略)

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 みむら・てつしげ 高梁高、岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。済生会西条病院(愛媛県西条市)を経て、国立がんセンターで研修。1988年から岡山済生会総合病院に勤め、外科医長、主任医長、診療部長を歴任し、2005年から現職。岡山大医学部臨床教授。日本肝胆膵外科学会の高度技能指導医。趣味は散歩、音楽鑑賞。大学では漕艇(そうてい)部の主将、大学院時代は監督も務めた。

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 胆道 肝臓でつくられた胆汁が小腸の一部(十二指腸)まで至る経路をいう。小腸で脂肪の消化吸収を助ける胆汁は、肝臓から胆管を経て胆のうに一時入る。ここで貯留され、約10倍に濃縮される。食物を取ると胆のうは収縮し、胆汁が胆管を通って十二指腸に排出される。

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 外来 三村副院長の外来診察は木・金曜午前と木曜午後。予約可。かかりつけ医の紹介状持参が望ましい。

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岡山済生会総合病院
岡山市北区伊福町1の17の18
電話 086―252―2211
メール koekiku@okayamasaiseikai.or.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月15日 更新)

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