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「マダニ感染症」の予防と対処法 県環境保健センター岸本所長に聞く

岡山県環境保健センターの岸本寿男所長

 岡山県備中保健所井笠支所管内で今月上旬、80代女性が、マダニが媒介するウイルス性感染症「重症熱性血小板減少症候群」(SFTS)で死亡した。県内で初めての感染確認だ。SFTSは確立された治療法がなく、感染経路も不明な点が多い。岡山県環境保健センターの岸本寿男所長に予防や治療に向けた取り組みを聞いた。

 ―SFTSを媒介するマダニはどういったダニか。

 体長3~4ミリで野山に広く生息している。屋内のイエダニ(0・5~1ミリ)とは違う。山林に多くいるが、シカやイノシシ、イタチ、ネズミなどの野生動物に吸い付いて移動するので、民家に近い田畑や草むらにいてもおかしくはない。

 ―感染すると、どんな症状が出るのか。

 38度以上の高熱や食欲不振、嘔吐(おうと)、下痢の消化器症状などだ。メカニズムはよく分かっていないが、血小板の減少で出血が止まらなくなり、多臓器不全などを起こして最悪の場合、死に至る。ただ、全ての感染者が重症化するわけではない。

 ―マダニは国内に約40種いるが、ウイルスを媒介する種類はまだ特定できていない。

 最も疑われているのは、中国で感染が確認されたフタトゲチマダニで、岡山県内でも多く生息している。媒介するマダニの種類を特定し、有効な治療法や予防策を探すため、国の研究班が本年度から3年間、SFTSの制圧に向けた研究を進めている。私も研究協力者として迅速な診断体制の整備や疫学調査を行う予定だ。

 ―これまで国内で14人が死亡している。ワクチンの開発など治療法の確立に向けた動きは。

 ワクチン開発は、現時点では症例が少ない上、世界的な規模での臨床研究が必要となるなど相当ハードルが高い。当面は対症療法の精度を高めていくことが重要だ。これまでの感染者の情報を比較検討し、有効な方法を見つけていく。そのためには重症例以外に軽症も含めて多くの情報が必要。医療機関は似た症状があれば保健所に連絡してほしい。

 ―予防と、かまれたときの対処の方法は。

 野山に入る時は長袖、長ズボンで肌の露出を避け、かまれないようにする。マダニはストロー状の「口器(こうき)」を皮膚に差し込むが、体に付着してからしばらくはかむ場所を探す。半日から1日かかるともされ、その日のうちに体をきれいに洗い流すことが大切。かまれた状態で無理に引き抜くと口器が皮膚の中に残って炎症を起こしたり、マダニの体液が体内に流れ込む恐れがあるので皮膚科を受診してほしい。

 ―やはり、早めの受診が重要か。

 これまでの感染例から見て、早めに手を打った方が重症化を防げるようだ。ただ、医師が、嘔吐などの症状とマダニとの関係を見落とす可能性もあるので、マダニのいそうな場所に行ったなど、思い当たる節があれば必ず受診時に申告してほしい。8月4日には国立感染症研究所(東京)の専門家らを岡山に招いて医療機関向けの研修会を開くなど、診断・治療体制づくりも急ぐつもりだ。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年07月23日 更新)

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