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(1)はじめに 心臓病センター榊原病院長(糖尿病内科) 岡崎悟

おかざき・さとる 島根県立平田高、岡山大医学部卒。卒業後、同大第一内科学教室に入局。以来、糖尿病の臨床、研究を続け、1998年から心臓病センター榊原病院で糖尿病内科を開設、現在、病院長。糖尿病学会功労学術評議員。

 2011(平成23)年の国民健康・栄養調査によれば、わが国の成人の約4人に1人が糖尿病かその予備群という結果が報告されています。日本人はもともと欧米人に比しインスリンの量が少ない民族で、急激な生活様式の欧米化により肥満が増え、インスリンの効き目が悪くなることで容易に糖尿病を発病すると考えられています。

 糖尿病は、インスリンの不足によって血糖が高くなる病気で、インスリンの不足は年とともに進行し、しかも、きちんと治療しなければいろいろな合併症を起こしてくる病気です。したがって、できるだけ早期に発見し、早期に治療を開始して良い血糖コントロールを維持することが大切になります。

 糖尿病の診断・治療にグリコヘモグロビン(HbA1c)の測定は重要ですが、これは過去1、2カ月間の平均血糖値を反映しており、慢性的な高血糖状態を知る良い指標となります。以前から、グリコヘモグロビンの値が、測定に用いる標準物質の違いにより日本の値(JDS)は欧米の値(NGSP)より0・4%低いことが問題になっていましたが、数年前より国際標準化に向けた協議の結果、今年4月1日よりNGSP値に統一されることになりました。したがって、現在のグリコヘモグロビン値は以前の値より0・4%高い値になっています。

 今から20年ぐらい前に、欧米や日本(熊本)から、血糖値を一定以下に下げておけば合併症を予防できることが報告されました。日本では、熊本スタディーを受けて、血糖コントロールをグリコヘモグロビン値で優、良、可(不十分、不良)、不可という判定をするようになりました=表の上段参照。すなわち、優は正常のレベルであり、良は合併症が起こらないレベルで、優か良を目指すよう求められました。可や不可になると出来が悪いという評価になり、まるで通信簿のようでした。

 このたび、グリコヘモグロビンの国際標準化に合わせ、これまでの結果判定ではなく、目指すべき血糖コントロールの指標として、国際的に通用するグリコヘモグロビンの目標値が協議されました。今年5月17日、熊本で開催された第56回日本糖尿病学会総会において、荒木栄一会長より「あなたのグリコヘモグロビンを7%未満に保ちましょう」との熊本宣言が提唱され、6月1日より、グリコヘモグロビンの新たな目標値が設定されました=表の下段参照

 糖尿病患者さんの生活の質を保ち、健康寿命を維持するためにグリコヘモグロビンを7%未満に保つことは非常に大切ですが、一方、血糖コントロールを厳しくすると重症低血糖が起こりやすくなり、予後を悪くすることも知られ、一律に目標を決めるのでなく、一人一人に合った目標設定も大切とされています。可能なら6%未満を目指し、無理なら8%未満で良いとされました。さらに、食後の血糖上昇が動脈硬化を悪くすることが知られており、1日の血糖変動幅を小さくすることも大切です。

 近年、糖尿病治療薬が次々と開発され、中でも、インクレチン関連薬が非常に多く使われています。この薬は、血糖をしっかり下げながら、低血糖は少なく、体重増加も少ない薬で、しかも、血管を守り、心、腎の保護作用もあり、膵(すい)β細胞を増やす効果も期待されています。血糖コントロールが不十分な時には、早めにインスリン注射を導入し、血糖を下げることが推奨されます。

 心臓病センター榊原病院には連日のように狭心症や心筋梗塞の患者さんが救急車で搬送されてきますが、その半数近くは糖尿病の患者さんです。よく見ると、足の血管や頭の血管も詰まりかけていることが多く、全身の血管が傷んでいます。こういう事態にならないよう、できるだけ早期発見、早期治療に心掛け、決して糖尿病を甘く見ないようにいたしましょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年08月05日 更新)

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