文字 

(1)NASH 天和会松田病院理事長・院長 松田忠和

まつだ・ただかず 倉敷青陵高、岡山大医学部卒。姫路中央病院、十全総合病院、水島第一病院などを経て1985年から天和会松田病院に勤務。2004年から同病院理事長・院長。

 肝細胞がんは5年ほど前までは、私の施設で手術を受けられる患者さんの90%以上がB型またはC型慢性肝炎からの発がんでした。しかし昨年を例にとると、切除された肝細胞がんの約半数が脂肪肝をベース(多くの患者さんは糖尿病や肥満)に発がんしていました。図1のごとく40万人(男性)を対象とした米国のデータでも肥満者が肝細胞がんを発症するリスクは極めて高いのです。

 さて脂肪肝とは肝臓の細胞の内に中性脂肪のたまった状態をいい、以前は大した病気ではないとわれわれも認識していました。アルコールをほとんど飲まない人に起こる脂肪肝を非アルコール性脂肪肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)と呼んでいます(国内に約1千万人いると推定される)。NAFLDには、進行せず良性の経過をたどる単純性脂肪肝と、肝硬変、肝がんへと進行する可能性のある非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)が存在します。このNASHという病名は、1980年にアメリカのMayoクリニックの病理学者Ludwigにより最初に報告されました。NASHは国内に約100万〜200万人も存在すると推定されています。

 NASHになるのには以下のような原因が挙げられています。(1)肥満(内臓脂肪蓄積)(2)糖尿病(3)脂質代謝異常症(4)高血圧症(5)急激な体重減少や急性飢餓状態(6)薬剤(ステロイドなど)―などですが、ウイルス性肝炎(B型、C型)、自己免疫性肝炎、薬物性肝障害などを除外する必要があります。そのメカニズムはまだ十分解明されていませんが、図2の通り「二つのヒット理論」が提唱され、広く受け入れられています。第一のヒット(突然変異)は肥満、糖尿病、高脂血症などのインスリン抵抗性(インスリンが十分あるのに利用されず高血糖となりその結果脂肪を体にため込む)によって肝臓に脂肪が蓄積して脂肪肝になり、そして第二のヒットで脂質過酸化、サイトカインによる攻撃、鉄などの酸化ストレスが起こりNASHの状態となります。

 NASHと診断するためには以下の3項目を満たすことが必須です。(1)非飲酒者である(エタノール換算で1日20グラム未満)(2)肝組織所見が脂肪肝炎(3)他の原因による肝疾患の除外―です。肝生検(肝臓に針を刺して組織を取る)は必須ですが、体内貯蔵鉄量の指標である血清フェリチンが高い、空腹時インスリンが高い、肝の線維化の進展度を反映するIV型コラーゲン7Sが高い等の検査を参考に、かなりのところまで診断可能です。

 では治療についてですが、まずはメタボリックシンドローム(内蔵脂肪型症候群)の治療、とくに食事療法による減量(BMIの適正化、総カロリーを25〜35キロカロリー/キログラム標準体重/日)と、週3回程度20分軽く汗ばむ程度の運動療法を併せて行います。また食事、運動療法が無効の場合、インスリン抵抗性や酸化ストレスに対してウルソデオキシコール酸やビタミンEやピオグリタゾンなどの薬物療法があります。ただいずれにしても何よりもメタボリックシンドロームに陥らないよう、太らないように気を付け節制することが大事です。
(日本肝臓学会肝臓専門医)

◇天和会松田病院(電話086―422―3550)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年08月05日 更新)

タグ: がん健康糖尿病松田病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ