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(7)生活習慣病の診療 倉敷中央病院循環器内科部長 福康志

ふく・やすし 岡山朝日高、千葉大医学部卒。京都大医学部付属病院を経て1996年倉敷中央病院循環器内科、2011年から現職。日本内科学会認定医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

 現在、日本人の死亡原因は、動脈硬化性疾患、つまり心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患と脳卒中が、がんと並んで大きな位置を占めています。糖尿病、脂質異常症、高血圧は動脈硬化進行の危険因子ですが、これらの病気に対する新薬が次々と開発されているにもかかわらず、動脈硬化性疾患の頻度はますます増加しています。

 その理由の一つに、メタボリックシンドロームの増加が指摘されています。メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪の蓄積に加えて、糖尿病、脂質異常症、高血圧のうち2項目以上が認められる状態のことをいいますが、その基盤にあるのは肥満です。さらに肥満が、糖尿病、脂質異常症、高血圧を引き起こす原因となっていることもわかってきています。

糖尿病

 血糖値(血液中の糖分)が基準値より高い状態のことをいいます。初期の段階ではほとんどが無症状のため、血液検査ではじめて診断されることが多い病気です。しかし放置しておくと、さまざまな合併症が出てきます。心筋梗塞、脳卒中に加えて、腎不全が進行すると血液透析が必要となりますし、網膜症のために失明することもあります。適切な治療を行わなければ、生活の質が損なわれるおそれがあるため要注意です。

 治療の基本は食事療法と運動療法になりますが、糖尿病の状態や合併症の有無などを考慮し、内服薬やインスリン注射が使用されます。

脂質異常症

 悪玉コレステロールであるLDLコレステロールや中性脂肪が基準値より高い、もしくは善玉コレステロールであるHDLコレステロールが基準値より低い状態のことを示します。以前は高脂血症または高コレステロール血症と呼ばれていました。コレステロールの値に異常がある状態が続くと、動脈硬化性疾患が起きやすくなります。閉経前の女性は、女性ホルモンが脂質異常症や動脈硬化を防ぐように働くため、男性に比べて脂質異常症にかかる割合が低いのですが、更年期をすぎると男性よりも多くなるので注意が必要です。

 LDLコレステロールが高いほど冠動脈疾患の発症率が高くなることがわかっているので、特にLDLコレステロールが高い場合は、卵や内臓類のコレステロールを多く含む食品の摂取量を減らし、肉類よりも魚介類や大豆製品を中心とした食事にすることが重要です。それでも高値が続く場合には、スタチン製剤を中心としたLDLコレステロール低下薬を早めに開始することが有効であることがわかっています。

高血圧

 何らかの原因で血圧が基準値よりも高くなった状態のことをいいますが、高血圧と診断される人の9割以上は原因が明らかではない本態性高血圧です。しかし、遺伝的体質に塩分やアルコールの過剰摂取、肥満、ストレスなどさまざまな因子が影響して発症すると考えられています。高血圧も動脈硬化性疾患進行の重要な危険因子ですが、特に脳卒中との関連が強いことがわかっています。減塩を中心とした食事療法と適度な運動が治療の基本となりますが、危険性に応じて薬物療法を開始します。

 これら以外の動脈硬化性疾患の重要な危険因子として、喫煙が挙げられます。喫煙にメタボリックシンドロームが重なると動脈硬化が進行しやすくなり、冠動脈疾患や脳梗塞を発症する危険性が高まります。さらに喫煙は、メタボリックシンドロームの発症の危険性も高くし、喫煙本数が多いほどその危険性が上昇しますが、反対に、禁煙し禁煙後の年数が長くなるほどその危険性が低下することもわかっています。

 メタボリックシンドロームの治療の基本は、で示すような生活習慣の改善にあります。生活習慣の改善により肥満が改善し、内臓脂肪が減少します。しかし、生活習慣を改善してもまだ軽快しない糖尿病、脂質異常症、高血圧があれば、それらに対して薬物療法を行う必要性があります。

 ストレスの多い日々の生活において生活習慣の改善は難しいかもしれませんが、健康な体を維持するためには、意識して、少しでも食事療法と運動療法を中心とした生活習慣の改善を行っていくことがとても重要になります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年08月05日 更新)

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