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新出生前診断開始から1カ月 岡山大病院、高齢妊婦ら18組受診

早田助教(右)から遺伝カウンセリングを受ける女性。この後、新出生前診断を受ける決断をし採血を行った

 中国地方唯一の施設として岡山大病院(岡山市北区)が、ダウン症など胎児の染色体異常を妊婦の血液で調べる新しい出生前診断を開始して11日で1カ月。これまでに高齢妊婦ら18組の夫婦が診断に必須の遺伝カウンセリングを受けて採血し、結果が出た10組はすべて陰性だった。今も岡山県内外の病院から次々に妊婦の紹介があり、遺伝カウンセリング外来の予約は9月上旬まで埋まっている状況だ。

 「では、同意書にサインをお願いします」

 8月上旬、同大病院の診察室。臨床遺伝専門医の早田桂助教が、広島県に住む夫婦に話し掛けた。

 妻は38歳、夫は43歳。初めて授かった子どもで高齢出産になる。広島には診断を実施する病院がなく、岡山大病院での受診を決めたという。

 ダウン症などへの正しい理解も含めた遺伝カウンセリングを約1時間受けた夫婦は書類に署名。妻は採血のため、別室に移動した。

 2人は「昨夏以降、頻繁にニュースで流れるようになり、新しい診断方法を知った。陽性判定が出ても2人でしっかりと相談し、その後の行動を決めたい」と話した。

高い精度 

 新しい出生前診断は米国の企業が開発。妊婦の血液に混じる胎児由来のDNAを解析し、ダウン症など3種類の染色体異常を高い精度で調べることができるとされる。採血だけで検査でき、妊婦の腹部から針を刺す羊水検査のような流産リスクがないのが特長だ。

 早田助教によると、21番染色体の数の異常があるダウン症(21トリソミー)の的中率は、陽性の場合は30歳約50%、35歳約80%、42歳約95%。陰性は99%以上という。

 一方で、リスクの低さや精度の高さから、広く普及すれば「命の選別」につながるとの懸念もある。

 このため、日本産科婦人科学会は対象を35歳以上の高齢妊婦らに限定。適切な遺伝カウンセリングが可能な環境づくりに向けた臨床研究として、4月から全国15施設で始まった。岡山大は7月11日に開始され、現在は26病院で行われている。

検査の一つ 

 実施病院の拡大や高齢妊娠の増加を背景に、多くの人が新しい出生前診断を利用しているといえそうだ。

 臨床研究グループの集計によると、全国では6月末までの3カ月間に1534人が受診。陽性と判定されたのは約2%の29人だった。このうち羊水検査などを受けたことが確認されたのは10人で、異常が確定したのは6人、結果的に異常がなかった妊婦も2人いたことが分かった。受診理由は高齢妊娠が94・1%を占めた。

 岡山大病院でも診断を受けた妊婦18人は、超音波検査で胎児に首の後ろのむくみがあり、ダウン症などの可能性を指摘された30代前半の女性を除き、いずれも35歳以上の妊婦だった。

 ただ、新しい出生前診断は、陰性でも陽性でも判定の信頼性は100%ではない。早田助教は「診断はあくまで、染色体異常を調べる検査の一つ。これだけで結論を出さず、確定診断に向け、羊水検査などを絶対に受けてほしい」と話している。


 新出生前診断 ダウン症の21トリソミー、心臓疾患などを伴う18トリソミーと13トリソミーの計3種類の染色体異常を調べる。妊娠10週から検査できる。日本産科婦人科学会が対象妊婦などの条件を定め、日本医学会が実施施設を認定。米シーケノム社が2011年に実用化し、費用は全額が自己負担で約21万円。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年08月11日 更新)

タグ: 女性岡山大学病院

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