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(67) 脊椎手術 岡山ろうさい病院 山内太郎 整形外科副部長(42) 内視鏡使いヘルニア摘出 痛み少なく回復早い

山内副部長は脊椎手術を「安全第一」で行う。「痛みが改善した患者さんから、感謝されるとうれしいですね」と話す

 脊椎は背骨を構成する「椎骨」を指し、首からお尻にかけて約30個が並んでいる。体の支柱となるばかりか、脳からの指令を伝える脊髄を保護し、その重要性は言をまたない。

 ここに老化や外傷、スポーツ障害といった原因から異常が生じるのが脊椎疾患。加齢とともに増加する骨粗しょう性脊椎骨折、若年者に多い腰椎椎間板ヘルニアなどである。山内はこの手術に、体の負担が軽い術法を使うスペシャリストだ。

 腰椎椎間板ヘルニアは、外力によって椎間板内側の髄核が背中側へはみ出し、神経を圧迫して腰や足の痛み、しびれを招く。薬や理学療法などの保存的治療で治るケースが多いが「足の強いまひや排尿・排便障害が起きれば手術を勧める」と言う。

 手掛けるのは「内視鏡下ヘルニア摘出術」。皮膚切開が従来の手術(約5センチ)の半分以下で「術後の痛みが少なく、翌日から歩け回復も早い」。

 手順は全身麻酔をかけ、うつぶせに寝た患者の腰部を約2センチ切る。金属製の円筒(直径1・8センチ)を差し込んで内視鏡(小型カメラ)や術具を通し、内部の画像をモニターで見ながら椎間板の突出部を取り除く。

 1時間ほどの手術だが、簡単にはいかない。椎間板へ至るまでには、椎弓の一部を削ったり、馬尾(神経の束)前後の後縦靱帯(こうじゅうじんたい)、黄色靱帯を切る必要がある。「神経を傷付けないよう術具を操作しなければならず、技術と経験を要する」と説く。

 一方、骨粗しょう症による脊椎圧迫骨折に用いるのは「経皮的椎体形成術」である。

 骨が代謝バランスを崩しスカスカになる骨粗しょう症は、閉経後の女性に多い。これが原因で椎体が押しつぶされる圧迫骨折は、背中や腰に激痛が走る。「座っただけで、つぶれることもある。そのまま骨がつくと、猫背にもなる」と付言する。

 椎体形成術は、全身麻酔でうつぶせに寝た患者の背骨の左右から、椎体に向けストロー状の針(直径約5ミリ)を計2本刺す。風船を膨らませて、つぶれた患部を広げ、医療用セメントを平均計4ミリリットル注入する。

 山内は脊髄、馬尾や周辺を走る大動脈に注意し、エックス線画像を見ながら慎重に施術。「セメントは約20分で固まり、治療は約1時間。翌日から歩行できる」と話す。

 だが骨粗しょう症ゆえに、圧迫骨折は治療箇所の隣接椎体でも起きやすい。このため、骨の形成を促す新薬テリパラチドを毎日1回、自己注射する療法を併用し、再発予防に努める。

 脊椎外科医の基盤は、2度勤務した国立病院機構岡山医療センター整形外科で築いた。名医・中原進之介(現診療部長)の下で、医師の心構えや巧みな手技を体得。脊椎手術は2006年から始め、通算実績は約1200例。岡山ろうさい病院では昨年91例のうち、4月着任ながら約50例を執刀した。

 小学4年の時、股関節の病気・ペルテス病を発症。両脚に治療装具を2年間つけ、中学時代も得意な運動を制限された。野球選手になる夢を断たれ、選んだのが医の道だった。患者の苦しみが分かるだけに、手術には「自分の家族に行うように全力で挑む」という。(敬称略)

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 やまうち・たろう 丸亀高、岡山大医学部卒。国立岡山病院(現国立病院機構岡山医療センター)、奥島病院(松山市)、津山中央病院などに勤務。2012年4月、岡山労災病院(今年5月から岡山ろうさい病院と呼称)に赴任し、整形外科医長を経て今年4月から現職。医学生時代は空手道部で体を鍛えた。

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 背骨の構造 頸椎(けいつい)7個、胸椎12個、腰椎5個と仙骨(仙椎)、尾骨(尾椎)が連結してできている。個々の椎骨はおおむね、円柱状の椎体に半円形の椎弓が背中側に付き、間に穴(椎孔)がある。この穴が上下に連なって脊柱管(直径約1.5センチ)を形成し、脊髄や、神経の束である馬尾が通っている。

 椎体同士はクッションの役目をする椎間板を挟み、前後は靱帯で結ばれている。椎間板は円柱形の軟骨で、ゼリー状の髄核を線維輪という硬い外層が取り囲んでいる。

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 外来 山内副部長の外来診察は火・金曜日午前(8時〜11時受け付け)。かかりつけ医の紹介状持参が望ましい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年08月19日 更新)

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