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(2)糖尿病の食事療法―最近の考え方 心臓病センター榊原病院糖尿病内科 内科部長 福田哲也

ふくだ・てつや 淳心学院高、岡山大医学部卒。三豊総合病院健康増進部部長、岡山大第一内科講師、姫路赤十字病院第一内科部長などを経て2005年10月から心臓病センター榊原病院に内科部長として勤務。日本糖尿病学会学術評議員・専門医・指導医。

【図1】現在発刊されている食品交換表第6版

 糖尿病の食事療法はすべての糖尿病患者さんが実施すべき基本的な治療です。その目的はインスリンの必要量を減少させ、同時に動脈硬化の進展を防止して健康長寿を達成することで、単に血糖の管理だけを目的としていません。

 糖尿病と診断され、食事療法の指導を受けたほとんどの人は「糖尿病食事療法のための食品交換表」(以下食品交換表)を用いて指導されており、この本は隠れた大ベストセラーと言われています。この食品交換表は1965年に糖尿病学会から第1版が出版され、現在まで6回改訂されてきましたが、今年秋11年ぶりに改訂され第7版が出版予定です=図1参照

 食品交換表は私たちが日常食べている食品を、多く含まれている栄養素によって六つの食品グループ(表)と調味料に分類し、同じ表にある食品なら同じカロリー(単位)ずつ交換して食べることができます=図2参照

 この食品交換表は(1)簡単で使いやすい(2)いろいろな食習慣、環境の人が使える(3)外食するときにも役立つ(4)正しい食事の原則を理解するのに役立つ―をコンセプトに作成されています。日本人の食生活は食品交換表が出版された1960年代以降大きく変化してきており、その都度、食生活の実態を踏まえながら食品交換表の内容も修正されてきました。しかしその基本は総摂取エネルギーの適正化(いわゆる「腹七、八分」)と炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素のバランスを図って食べることです。

 糖尿病の食事療法を指導する際には、患者さんの食生活の変容と身体活動度を総合的に考慮しながら行います。その上で、患者さんが家族をはじめとする社会生活の中で食を楽しみながら食事療法を実践し継続していけるようにすることが必要です。そのためには日本人がこれまで培ってきた伝統的な食文化を基軸にして、かつ現在の食生活の変化にも柔軟に対応していくことが重要と考えます。特に高齢者では長年親しんだ食生活を改めることになりますからより配慮が必要です。

 しかし最近、糖尿病の食事療法について、炭水化物の摂取量に的を絞った食事療法に関心が集まっており、一部に混乱を生じています。私が診ている患者さんの中にもいわゆる糖質制限食を実践され、良好な血糖コントロールと体重減少が得られた人を経験していますので、この食事療法はある程度効果があるかもしれません。しかし今年3月、日本糖尿病学会からの提言として食事の摂取量全体を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限して減量を図ることは、その効果のみならず、長期的な食事療法としての遵守(じゅんしゅ)性や安全性などを担保する十分な科学的根拠が不足しており、現時点では勧められないとしています。今回の食品交換表の改訂版でも、食事に含まれる炭水化物の適正な配分は摂取エネルギーの50〜60%が妥当であり、極端な糖質制限食は長期的にみて糖尿病腎症や動脈硬化の進行が懸念されるので勧めていません。

 食品交換表は食事療法を実践するために多くの糖尿病患者さんに利用してもらいたいのですが、実際は「持ってはいるが使っていない」人が多いように見受けられます。今回の改訂を機に是非とも積極的に利用してもらって、より良いコントロールが得られるようにしてもらいたいと思います。糖尿病の食事療法は、糖尿病食として特別な食事があるわけではありません。健康長寿を達成するための食事であり、万人が実践すべき健康食であることを理解していただきたいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年08月19日 更新)

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