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(3)次々に登場する糖尿病の新薬 心臓病センター榊原病院糖尿病内科 内科部長 福田哲也

ふくだ・てつや 淳心学院高、岡山大医学部卒。三豊総合病院健康増進部部長、岡山大第一内科講師、姫路赤十字病院第一内科部長などを経て2005年10月から心臓病センター榊原病院に内科部長として勤務。日本糖尿病学会学術評議員・専門医・指導医。

 私が糖尿病診療に携わり始めた昭和50年代前半の糖尿病治療薬といえば、経口薬が2種類と注射薬のインスリン製剤しかありませんでした。それが30年以上経過した現在、経口薬は6種類に増え、注射薬もGLP―1受容体作動薬が登場して、糖尿病治療は大きく前進してきました=図参照。しかし糖尿病患者の数が一向に減らないのはなんとも皮肉な現象です。

 ここ数年、糖尿病診療が大きく変わってきたと思います。それはDPP―4阻害薬という薬が登場したからです。この薬は3年半前に登場しましたが、この薬の特徴は血糖値に応じてインスリンの分泌を刺激して血糖値を下げ、単独では低血糖を起こさないことです。そして今のところ大きな副作用も確認されていないため大変使いやすい薬です。現在300万人近い糖尿病患者さんがこの薬を服用されています。日本で治療を受けている糖尿病患者さんは約500万人と推定されていますので、半数以上の人がこの薬を服用している計算になります。

 このDPP―4阻害薬と注射薬であるGLP―1受容体作動薬を合わせてインクレチン関連薬といいますが、今後この種の薬が糖尿病診療においてさらに大きな地位を占めると思います。この関連薬はさらに進化しています。DPP―4阻害薬では週1回服用する薬が開発中です。またGLP―1受容体作動薬でも週に1回の注射薬がすでに市場に出ていますが、今後は3カ月に1回の注射薬も出てきそうです。

 さらにインクレチン関連薬のほかに作用機序(作用の仕組み)が異なる糖尿病新薬もいろいろ開発中です=表参照

 このうち当院でも治験したことがある二つの新薬を紹介します。まずはSGLT2阻害薬です。この薬はインスリンと関係なく血中にある過剰なブドウ糖を尿中に排泄(はいせつ)することで血糖を下げます。一般に腎臓は血糖値が170〜180mg/dl以下であれば、糖を尿中に漏らすことはありません。これは腎臓の尿細管というところでSGLT2という蛋白(たんぱく)が流入したブドウ糖を再吸収しているからです。SGLT2阻害薬はこの蛋白の働きを阻害して糖を尿中に排泄し、その結果血糖値を下げます。また大量のブドウ糖を尿中に排泄するので体重減少効果も確認されています。この薬は来年早々に臨床で使えるようになります。

 次はGPR40作動薬という薬です。この薬は膵臓(すいぞう)のβ細胞に特異的に存在するGPR40という受容体を刺激し、血糖値に応じてインスリン分泌を促進して血糖を下げます。そして単独では低血糖を起こすことがない薬です。この薬も2年後には臨床に使えるようになると思います。

 このように糖尿病治療の新薬は次々開発されていますが、読者の皆さんの中には、今自分が服用している糖尿病の薬が数年以上前から全く変わっておらず、こういう新しい薬があったら替えてもらおうかと思われるかもしれません。しかし血糖コントロールが良く問題なければ、別に変更する必要はありません。服用されている糖尿病の薬が今のところ安全で効果があることを示しているからです。また新薬の多くは2型糖尿病(自前のインスリン分泌が保たれている)を対象としているので、インスリン分泌が乏しいためにインスリン治療をしている人では、インスリン治療を中止して新薬に変更することは死につながることもあり大変危険です。

 このように糖尿病治療は年々確実に進歩していますが、やはり一番重要なのは生活習慣を改めることです。間違った生活習慣を改めない限り、どんなに優れた薬を使っても効果はないと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年09月02日 更新)

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