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(3)麻酔科医の役割と麻酔について 天和会松田病院麻酔科医長 岩木俊男

いわき・としお 広大付属福山高、岡山大医学部卒。岡山大麻酔蘇生科に入局、岡山大学病院など関連病院勤務の後、2003年4月から天和会松田病院に勤務。現在、同病院麻酔科医長。麻酔指導医、ペインクリニック専門医。

天和会松田病院の手術風景。右が岩木麻酔科医長

 今回は、私の持っている麻酔指導医、ペインクリニック専門医という二つの分野の資格のうち、麻酔指導医の立場から手術麻酔について皆さんにお話しします。

 「麻酔」と言えば、皆さんが手術を受ける時に、眠ったままで痛みもなく、知らないうちに悪い所を治してもらえる便利なものと思われているだけかもしれません。しかし、患者さんに対する麻酔は、暴れまくる猛獣に対して打つ麻酔とは、少し訳が違います。今回は例として、おなかの手術を受ける場合の全身麻酔についてお話しします。

 手術室に入り、術中、術後の痛みをとるために、背中から硬膜外(こうまくがい)カテーテルという細い管を入れて、痛み止めの薬が注入できるように準備します。その後、麻酔をかけて、患者さんが眠った後、手術が始まります。

 まず、おなかの皮膚を切開します。それから筋肉を開き、病変のある部分に達していきます。その時に筋肉が硬いと、手術の操作が進みません。従って筋肉を柔らかくする薬物(筋弛緩(きんしかん)剤)が必要となります。このお薬を投与すると呼吸をするための筋肉の働きが低下して、患者さん自身では呼吸ができなくなります。そこで、麻酔科医が手術が始まる前に患者さんが眠った後、患者さんの気管に管を入れて(気管内挿管)、人工呼吸を行います。また、手術中強い痛みを伴う時には、術前に入れた硬膜外カテーテルより鎮痛薬を注入することにより、術後の患者さんの体の負担は、ずっと軽くなります。

 患者さんは、手術中、眠っていても、強い刺激が加わると、血圧が上がったり、心拍数が増加したりします。また出血が続いたり、麻酔薬が多すぎると逆に血圧が下がったりします。そのため麻酔科医は常に患者さんの血圧、心拍数などの状態を観察し、異常があれば、すぐ適当な処置を行っています。

 このように、麻酔科医は麻酔中、一時も患者さんのそばを離れず、安全な手術のためにその専門知識を駆使しています。また、手術が終わった後に、患者さんの呼吸、血圧、心拍数、体温が安定していることや、意識の回復、痛みがないことなどを確認するのも麻酔科医の仕事です。それらが全て安定して初めて麻酔科医の仕事は終了です。

 近年、手術を受ける患者さんの中には、高齢の方もたくさんいらっしゃいます。若い元気な人と比べて、心臓が悪い人、肺の機能が低下している人、糖尿病の人、肥満の人など麻酔をかける上で細かい配慮が必要となるようなさまざまな合併症を持っている方が多くなりました。そのような方には特に、麻酔により手術の侵襲(体への負担)をできるだけ少なくし、麻酔自体の侵襲も少なくするようにしなければいけません。それらが全てできるのは、豊富な知識と経験を有する麻酔専門医です。

 皆さんも、手術を受ける際に、病院を選ぶ指標として、手術の上手な医師がいる病院を選ぶのと同様に、信頼のおける麻酔専門医・指導医がいる病院を選ぶことをお勧めします。

 (麻酔指導医)

◇天和会松田病院(電話086―422―3550)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年09月02日 更新)

タグ: 高齢者糖尿病松田病院

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