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(9)大動脈瘤(りゅう)のステントグラフト治療 倉敷中央病院心臓血管外科部長 島本健

しまもと・たけし 東大寺学園高、京都大医学部卒。米国ユタ州LDS病院心臓胸部外科留学などを経て、2009年倉敷中央病院心臓血管外科、11年から現職。心臓血管外科専門医、腹部大動脈瘤ステントグラフト指導医。

【図1】動脈瘤の前後の径が正常な部分をつなぐように、ステントグラフトは留置します

【図2】開窓型ステントグラフトによって脳への血管を温存しながら動脈瘤を治療することも可能な場合もあります

動脈瘤とはどんな病気ですか?
放置しても大丈夫ですか?


 人間の体に酸素や栄養を含んだ血液を送るのが動脈です。動脈がこぶ状に拡張したものを動脈瘤と呼びます。動脈に動脈硬化・炎症・感染などの病変が起こると、動脈壁の伸展性が失われ、局所的に動脈壁が拡張して動脈瘤となるのです。日常診療でよくみられるものは腹部の大動脈瘤で、60歳以上の男子に多いといわれています。年をとると誰でもこの病気になる可能性を持っており、特に、動脈硬化を促進する原因(喫煙、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症など)をもっている方は可能性が高くなります。

どうやって動脈瘤を発見すればよいのでしょうか?

 大動脈瘤の治療実績が十分にある医師を受診しましょう。腹部大動脈瘤などは腹部超音波検査などで発見されることがありますが、正確な大きさの診断にはCT(コンピューター断層撮影)検査が不可欠です。無症状の大動脈瘤が発見され早期に治療されれば、大動脈瘤破裂による突然死が防止できます。

どのくらいの大きさになったら治療するのでしょうか?

 薬による治療はあまり効果がなく、大きくなって破裂すると救命率は非常に低いです。手術を決断するタイミングは「動脈瘤の大きさ」です。症状は関係ありません。標準的な治療法は外科的に動脈瘤を切除し人工血管に取り替える方法(人工血管置換術)です。腹部大動脈瘤では通常、その直径が5センチになれば破裂の危険性が高まるので手術を行うとされています。一方、胸部大動脈瘤の場合は、腹部よりも手術が難しくなるので、6センチ程度まで様子をみるのが一般的です。腹部の手術でも、以前に腹の手術をしたことがある、肺気腫や喘息(ぜんそく)をわずらっている、などは大きなリスクになります。加えて、胸部の手術は、大きく胸を切る、人工心肺装置を使う、輸血、低体温管理など体に大きな負担を強いることになります。さらに胸腹部にまたがる長い瘤では、治療の際に脊髄を栄養する細い動脈を障害し、術後に下半身麻痺(まひ)をきたすことがあります。脳血管や心臓に持病を抱える方、もともと肺や腎臓の機能が弱っている方や高齢である方にはお勧めすることができない欠点があります。

ステントグラフト

 このような背景のもと、近年、ステントグラフト内挿術が新たな治療法として広く認知されるようになってきました。ステントグラフトとは、人工血管(グラフト)に針金状の金属を編んだ金網(ステント)を合わせたものであり、大動脈瘤の内側にステントグラフトを挿入・留置し、瘤内の血流を遮断し破裂を予防することを目的とした低侵襲な治療法です。

ステントグラフト治療の実際

 倉敷中央病院でも2007年からハンドメイドのステントグラフト使って治療を開始しました。現在ではハンドメイドのものはほとんど使用しておらず、企業製のデバイス(機器)を使って治療にあたっています。デバイスが大きく進歩したからです。中には、頸(けい)動脈を巻き込んでいる瘤も治療できる開窓型のステントグラフトもあります。

 2010年から中四国で初めて、手術室に高性能の装置と専用の手術台が装備されたハイブリッド治療室が稼働し始めて、さらに精度の高い手術ができるようになったと感じます。実際の治療は、足の付け根を約3センチ切開し、そこから小さく細く折り畳んだステントグラフトを入れ、瘤をまたぐように留置します。標準的な瘤では1〜2時間で手術は終了します。術後は念のために心臓血管外科専用の集中治療室(CCUS)に入室し、密度の高い治療と看護を受けていただきます。当院では一般病棟でリハビリ後、約1週間で退院となります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年09月02日 更新)

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