文字 

風疹被害根絶へ患者会設立 岡山の母親ら

母親の川井千鶴さんに抱きかかえられる七海さん

 妊娠初期の女性が風疹に感染し、生まれた子に難聴や心疾患などの障害が残る「先天性風疹症候群(CRS)」。昨秋からの風疹の大流行で発症報告が相次ぐ中、CRSの娘を育てる岡山市の川井千鶴さん(38)は今夏、全国の患者や母親とともに患者会を設立。風疹根絶を目指し、ワクチン接種の無料化実現に向けて動き始めた。

 「ダンスが大好き。気が向くと、いつまでも踊ってます」。自宅でテレビから流れる歌に合わせ、体を動かす長女の七海さん(9)。見守る川井さんが表情を曇らせる。「でも、音は全然聞こえていないんですけどね」

 2003年春に妊娠。10週目に産婦人科で風疹と診断され、CRSの存在を初めて聞かされた。人工中絶を勧められたが、「おなかの子の命を守りたい」と出産を決意した。

 七海さんは聴覚障害に加え、重度知的障害、自閉症、てんかんなどを患う。「これだけ多くの障害を与えたことに責任を感じる」と川井さん。「当時、CRSの知識が少しでもあれば防げたのかも」と思っている。

今秋からさらに増 

 国立感染症研究所によると、今年に入ってからの風疹の患者数は20〜40代の男性を中心に全国で約1万4千人。6月ごろにピークを迎え、収束傾向にあるものの、推計で約4万人の患者が出た04年以来の大流行だ。

 確認された今年のCRSは9月末現在で14例。資料の残る1999年以降で最多だった04年の10例を既に上回り、「風疹の流行時期から換算すると今秋から来春にかけ、さらに増える」と同研究所。

 こうした中、8月下旬に結成されたのが患者会「風疹をなくそうの会 hand in hand」。全国の患者2人、母親8人がインターネットでつながりを深め、啓発パレードなどを通じて行動を共にしたのがきっかけだ。岡山県内からは母親2人が加わり、川井さんは3人の共同代表の1人に名前を連ねた。

国の対策後手に 

 CRSを防ぐには、妊娠前の女性や周囲の人たちへの予防接種が最も有効だ。しかし、成人が医療機関で風疹ワクチンを接種するには5千円以上、麻疹との混合ワクチンは1万円程度かかり、若い世代ほどためらいがちとされる。

 一方で大都市圏を中心に公費助成の動きも広がる。県内では6月から和気町が妊娠前の女性らに全額助成を始めたのをはじめ、倉敷、備前、高梁市など9市町村で全額から半額程度の公費負担を実施。抗体検査の助成を行う自治体もある。

 ただ、現状では自治体間で格差がある上、助成制度の利用率も高いとは言えない。患者会は9月中旬、「国や都道府県レベルの支援が必要」と厚生労働省を訪ね、国主導の公費助成のほか、啓発促進や患者、保護者の支援体制の確立などを求める要望書を提出した。

 今回の風疹流行は、厚労省研究班が04年に再流行の危険性を指摘しながら、国の対策が後手に回ったことが背景とされる。CRSが原因の人工中絶、流産は患者として生まれた子の60倍との推計もあり、川井さんは「CRSの子が生まれるたびに胸が張り裂けそうになる。小さな命を守れるよう社会を挙げて取り組んでいけたら」と訴えている。


 風疹 感染者のせきやくしゃみでうつる。熱や赤い発疹などが出て、三日ばしかとも呼ばれる。妊娠初期の女性が感染すると、新生児がCRSとなる確率が高い。現在は男女とも就学前に計2回、麻疹との混合ワクチンを接種しているが、20代後半以上の男性は定期接種を受ける機会がなかったため免疫のない人が多く、今回の流行につながっているとされる。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年10月09日 更新)

タグ: 健康女性子供医療・話題お産感染症

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ