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(69) 前立腺がん 岡山大学病院 那須 保友 教授・副病院長(56) 前立腺がんの最先端治療 ロボット手術、遺伝子治療…世界の拠点目指す

那須保友 教授・副病院長

 手術とはいえ、患部に人の手は触れない。代わって縦横無尽の動きを見せるのは、手術ロボット「ダビンチ」のアームだ。

 ロボット手術は、岡山大学病院が行う前立腺がんの最新治療法。けん引役が那須である。「開腹手術より切開部位が小さく、出血も少なく、回復も早い」と国内で普及にも努める。

 2009年に国が認可したダビンチは、アーム3本と高性能カメラを備えた米国製。手術は全身麻酔で、腹部6カ所に開けた0・5~1・2センチの穴からアームとカメラ、助手が操る鉗子(かんし)2本を挿入して進める。

 執刀医は手術台から離れた作業台に座り、アームを遠隔操作。鮮明な3次元画像を見ながら、患部を切除、縫合する。早期がんが適応対象で「狭い空間でも、繊細で複雑な動きが可能」と説明する。

 10年に約3億2千万円で導入以来、前立腺がんは通算約200例に実施し、12年4月からは保険適用となった。体の負担が軽いため、施術対象は胃や子宮がんなどへも広がっている。

 「岡山大を全国、世界に冠たる前立腺がんの医療拠点に」と、泌尿器科教授の公文裕巳と二人三脚で追求してきた。転機は1996年から2年間の米ベイラー医科大留学。世界の精鋭に交じり遺伝子治療などを研究し、飛躍を遂げた。

 01年、前立腺がんで国内初の遺伝子治療を開始。11年からは岡山大が発見したがん治療遺伝子「REIC(レイク)」を用いた臨床研究を進め、成果を挙げている。

 REICを運び役のアデノウイルスに組み込んだ製剤を患部に注射する手法。検証の結果、がん細胞だけを自滅させ、免疫力を高めて転移したがんも攻撃する効果があることを確認した。「手術が難しい進行がんなどのほか、悪性中皮腫や肺、膵臓(すいぞう)といった他のがんにも新たな治療法となり得る」と話す。

 さらに放射線治療では、放射線源を前立腺に埋め込む小線源療法のLDR(低線量率組織内照射療法)である。

 03年末、国内3カ所目の実施施設に認可され、04年から早期がんを対象に始めた。「通算症例数は約550と西日本で最多、全国でも10位内」を誇る。

 治療は下半身に麻酔をかけ、あおむけになった患者の性器と肛門の間から筒状の針を刺す。針を通して低線量率線源(ヨード125)を密封したチタン製カプセル(直径0・8ミリ、長さ4・5ミリ)を50~100個挿入。これが微弱な放射線を発し、がんを徐々に死滅させる。

 カプセルは前立腺内に永久に残るが、放射線量は約60日で半減、1年もすれば消滅する。「患者の90%以上にがんの再発や後遺症はない」と語る。

 同病院は今年4月、日本発の医薬品や医療機器の創出拠点として、厚生労働省の「臨床研究中核病院」に中四国で唯一選ばれた。那須は関連の83基幹病院と大規模な臨床研究や臨床試験(治験)などを進める実務責任者となり「患者さんのために『誠を尽くす』」と決意を表した。

 その精神は母校で大森弘之(現名誉教授)の薫陶を受け培った。「大事なのは技術だけではなく人間力」などの教えは胸に刻み、後進にも伝えているという。(敬称略)


 なす・やすとも 愛光高(松山市)、岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。広島市民病院勤務、米ベイラー医科大留学などを経て岡山大大学院准教授。2010年1月同大学病院新医療研究開発センター教授、13年9月から副病院長(研究担当)を兼ねる。日本泌尿器内視鏡学会、日本遺伝子治療学会理事。趣味はサイクリング、読書。

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 外来 那須副病院長の外来診察は月・金曜日午前。かかりつけ医の紹介状が必要。

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岡山大学病院

岡山市北区鹿田町2の5の1
電話 086―235―7945(泌尿器科外来)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年10月21日 更新)

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