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(6)腹腔鏡手術について  天和会松田病院外科医長 岩藤浩典

 いわどう・ひろのり 倉敷天城高、岡山大医学部卒。国立岩国病院(現岩国医療センター)、神戸赤十字病院、済生会今治病院などを経て、2000年から天和会松田病院勤務。日本内視鏡外科学会技術認定医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本外科学会外科専門医

腹腔鏡手術の疾患別症例数の推移

単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術。術後1カ月の腹部写真

 腹腔鏡(ふくくうきょう)手術は、従来行われていた開腹手術と比べると、より小さな傷で身体の負担を少なく済ませる目的で開発された手術です。

 日本内視鏡外科学会の調査では、1990年に日本で初めて胆石症に施行されて以来、腹部外科領域の腹腔鏡手術は順調に増加し2011年では7万例近くとなっています=グラフ参照。当初は胆嚢(たんのう)疾患が大部分を占めていましたが最近では大腸・胃に対する手術が増加しており、一部病院では肝臓・膵臓(すいぞう)疾患に対しても施行しています。胆嚢疾患に対しては、現在では標準的手術となっており多くの病院では第一選択として施行しています。

 腹腔鏡手術は、体表に5ミリ〜1センチ程度の小さな傷を数カ所開け、そこから腹腔鏡といわれるカメラをおなかの中(腹腔)に挿入し、腹腔内を映し出します。そして炭酸ガスで腹腔内を膨らませ手術に必要なスペースを確保し、鉗子(かんし)やハサミなどの細い手術器具をおなかの中に入れてモニター上に映し出された腹腔内の様子を見ながら手術を行います。

 腹腔鏡手術の長所は、体に優しい手術であることです。開腹手術に比べて傷が小さく、腹壁の破壊が少ないため手術後の痛みが少なく、体への負担が軽いと考えられます。また手術中、腹腔内臓器が空気にさらされることや直接術者に触れられることが無いため、術後の腸の動きの回復が早く、腹腔内に癒着を起こしにくい利点があります。そのため術後の食事・歩行などをより早く開始することができ、その結果、入院期間の短縮、早期の社会復帰が可能になりました。また、カメラを使用することでより近接・拡大した鮮明な映像を見ながらより繊細な手術が可能になります。

 短所としては、直接病変を見ながら行う手術ではなくモニターを介した2次元の映像を見ながら行う手術であるため、難易度が比較的高くなることや手術時間が長くなる傾向にあることですが、器具の改良や技術の習熟により開腹手術に比べ遜色のないレベルとなってきています(今後次第に3Dカメラが普及してくると思われ、その弱点も克服されていくでしょう)。

 また最近は、さらに傷の数を減らす努力を行い単孔式腹腔鏡下手術という方法も行っています。従来数カ所に分けて腹腔に挿入していた器具を、へその1カ所の傷から挿入して手術を行う方法です。傷跡は1カ所だけで、術後へその中に引き込まれて見えにくくなるため、従来の腹腔鏡手術に比べて、整容性に優れた方法と考えられます。

 今後さらに手術適応が広がり腹腔鏡手術の症例が増加すると考えられます。すべての疾患に対応できる万能の手術方法ではありませんが、安全性・根治性を損なわないという前提のもと、より体に優しい腹腔鏡手術を施行していきたいと思います。

(日本内視鏡外科学会技術認定医、日本外科学会外科専門医)



天和会松田病院(電話086―422―3550)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年10月21日 更新)

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