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(4)人工膝関節 最新情報 川崎医大骨・関節整形外科学准教授 川崎医大病院整形外科副部長 難波良文

なんば・よしふみ 岡山朝日高、岡山大医学部卒、同大学院医学研究科修了。岡山済生会総合病院、高知リハビリテーション病院、岡山労災病院整形外科部長兼初代人工関節センター長を経て、2010年から現職。日本整形外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本体育協会公認スポーツドクター

<図1>

<図2>

 人工関節は50年以上にわたる改良、改善の歴史を経て、現在では日本で年間11万人以上の方が、川崎医科大学でも年間460人以上の方が、人工関節の手術を受けておられます。私が医者になりたての20年前は、患者さんの術後の満足度はもう少しでしたが、今ではひざが疼(うず)いて眠れなかった方、歩くのがつらくて外へ出かけられなかった方でも、人工関節術後は見違えるほどスタスタと歩けるようになったと、たくさんの方に喜んでもらえるようになりました。

 このように術後成績が飛躍的に向上した要因として、人工膝関節(TKA)のインプラントの改善、手術技術の向上、術後の疼痛(とうつう)軽減などがあげられます。術後がそんなに痛くなくて、痛みがほとんどなくなると聞けば、ずいぶんと勇気づけられるものですよね。そうでなければ、こんなにたくさんの方が手術を受けるはずはないでしょう。そこで、今回は人工膝関節にまつわる最新のトピックスをいくつか解説することにします。

20年以上の耐久性

 私は外来で、人工関節は術後20年くらいもちますよとお話ししています。そうすると20年たつとみんな入れ替えの手術をしないといけないのかと落胆する方も多くいらっしゃいますが、そうではありません。100人手術をした人がいれば、95人以上の方が20年後までに再手術を受けなくてもすんだという意味で、20年経過しても大丈夫な方がたくさんいるということです。

 この著しい耐久性の向上は、手術技術の発展、人工関節の形態や素材が改善されたことによります。金属表面がセラミック加工となり、金属アレルギーのある患者さんにも対応したものや、ビタミンE添加により耐摩耗性能がすぐれた素材が開発されてきました。これらの素材を使用すると、約70年間動かし続けても、たった2ミリしかすり減らないという報告もあります。通常の人工関節は10ミリ程度の厚みがあるため、現在の素材を使えば10年20年たっても十分もつということになりますね。

高齢者にやさしい手術

 膝が痛くなる原因のほとんどは使い痛みです。したがって、年をとればとるほど膝が痛い患者さんは増えていきます。高齢化社会の現在、当院で手術を受ける人のほとんどが75歳以上で、80歳以上の方も珍しくありません。さすがに80歳以上ともなると持病をもっていたり、体力が落ちている方がほとんどですので、できるだけ負担の少ない手術を行うことが大切です。

 このため、当院では最少侵襲手術のひとつである人工膝単顆(たんか)置換術(UKA)を積極的に導入しています=図1参照。膝の全部を切り取って入れ替える一般的なTKAと違って、いたんでいる部分だけを人工関節にするだけですみますので、傷口も小さく、筋肉をいためることもないため、術後の痛みも楽で、回復も非常に早いという結果が出ています。

コンピューターを活用したコンマ1ミリ精度の手術=PMI

 私たちの体は、一つとして同じものはありません。当然手術をしないといけないほどいたんだ膝も全く同じ変形はありません。そこで、患者さんの個々の膝の形に沿わせた手術道具を作ることで、より正確な手術を行うという新技術(PMI:Patient Mached Instrument)が開発されました。道具の作製に多少時間がかかるという欠点もありますが、手術精度の飛躍的な向上や出血量の減少といった効果が期待されています。従来はほとんど目視で手術が行われてきましたが、この技術では術前のMRIやCTを3次元的に構成して、0・1ミリ、0・1度刻みで念入りに術前計画をたてます=図2参照

 われわれはこれまでに約50例PMIを用いた手術を行いましたが、計画との誤差は平均0・5ミリ以内で、出血量は従来の約半分になったため、術後に輸血を行わなくても済むようになりました。

 医学はまさに日進月歩の世界です。一人で悩まずに、まずはかかりつけのお医者さんに相談してみてください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年10月21日 更新)

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