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(中)t―PA血栓溶解療法 脳神経センター大田記念病院(福山市) 脳神経内科医師 竹島慎一

 たけしま・しんいち 広大付属高、防衛医科大学校卒。海上自衛隊、自衛隊大湊病院勤務、第六護衛隊司令部内科長、防衛医科大学校病院勤務を経て、2011年7月から脳神経センター大田記念病院脳神経内科勤務。日本神経学会専門医。

【図2】大田記念病院が独自に展開する一般市民への脳卒中啓発キャンペーン「おかしいよ」

脳梗塞とは

 脳へ酸素や栄養を供給する動脈が血栓によって閉塞することで、それ以降の血流が途絶えてしまい神経細胞死を起こす病気です。一般的に一度死んでしまった神経細胞は再生しないといわれており、脳梗塞によってダメージを受けた部分は二度と戻りません。そういったことから、これまでの脳梗塞の治療は、「新たな脳梗塞をこれ以上起こさないようにする」といった被害の拡大を防ぐことが基本でした。

血栓溶解療法とは

 近年になってそのような脳梗塞治療の考え方に対して変化が起こりました。実は、脳への血流が途絶えても、すぐに神経細胞が死滅してしまうわけではありません。虚血(血液が供給されないこと)に非常に弱いとはいえ神経細胞は、わずかの時間だけその状態に耐えることができるのです。そういった事実から、「脳の血管が血栓によって詰まっても、できるだけ早期に血栓を溶かしてしまえば血流が再開され神経細胞死を防ぐ(脳梗塞を治療できる)のではないだろうか?」といった考えが生まれました。

 そのような理論から始まったのが、「血栓溶解療法」です。

 実際のところは、症状の改善の程度はさまざまです。アメリカ合衆国や日本で行われた試験では、ほぼ障害のない状態での社会復帰を果たす割合は、血栓溶解療法を行った場合は行わなかった場合と比較して1・5倍多かったというデータもあります。

血栓溶解療法の方法

 実際の血栓溶解療法は、t―PA(tissue plasminogen activator)という薬を使用します。日本では2005年に認可されました。方法は、投与する用量の1割を急速に静脈注射し、残りの9割を1時間で点滴するといった患者さんに対しては比較的負担の少ないやり方で行うことができます。

適応について

 患者さんに対して負担が少なく、治療効果も期待がもてるt―PA治療ですが、全ての方に投与ができるというわけではありません。後に示します「t―PA投与による合併症」を予防するという観点から、t―PA投与にはさまざまな条件があります。

 最も重要なのが、「発症時間が明確である」ということです。現在は、発症から4・5時間以内に治療を行うということが絶対条件となっています。

 他には、「どのようなお薬を飲んでいるのか」「どういった病気にかかったことがあるのか、治療中なのか」といった病院での検査結果だけでなく、患者さん本人やご家族からの情報提供に基づき総合的に判断してt―PA治療の適応を決定します。

 安全にt―PA治療を行うために、厳しい条件が数多くあることから、実際にこの治療を受けることができるのは当院の脳梗塞患者の一部にすぎません。

合併症

 t―PA治療の合併症として最も注意すべきことは出血です。

 いったん脳血管が閉塞すると、血液が流れていない血管自体も時間とともに壊れ始めます。そのような場所に、血栓を溶かして血流がまた流れ始めると、破壊された血管から血液が漏れて出血してしまいます。特にt―PAを投与すると血液が固まりにくくなるので出血はさらに悪化してしまう可能性があります。アメリカ合衆国の報告では、t―PA治療を行うことで頭蓋内出血のリスクが約10倍に跳ね上がるとされています。

最後に

 ここまで述べてきたように、安全に、そしてより効果的にt―PA治療を行うためには、1分でも1秒でも早く治療を開始することが重要になります。そして、ご本人・ご家族からの正確かつ迅速な情報提供が大きな役割を果たします。こういった局面に遭遇した際の注意点についていくつか挙げます。

・「脳梗塞かな」と思ったらすぐに病院を受診してください。

・発症時間は「最後に元気であったのを確認した時間」を教えてください。

・お薬手帳を持参してください。

・これまでにかかった病気・けがなどを大まかに把握しておいてください。

 このことをしていただくだけで医療者としては大変助かります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年11月04日 更新)

タグ: 脳卒中

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