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(7)前立腺がん 早期がん治療成績は良好 天和会松田病院泌尿器科診療部長 森岡政明

 もりおか・まさあき 高知学芸高、岡山大医学部卒。岡山大泌尿器科、高知医科大泌尿器科助教授、川崎医大泌尿器科助教授などを経て2002年から現職。日本泌尿器科学会指導医・専門医、日本性機能学会専門医。医学博士。

 前立腺がんは50歳以上の中高年男性に多い悪性腫瘍で、高齢者人口の増加、がん検診の普及などから患者数、死亡数ともに増加傾向にあります。厚生労働省の死因簡単分類別表によれば平成23年の死亡数は1万人を超えるようになってきました。悪性腫瘍全般に共通することですが、早期発見された前立腺限局がんでは手術、放射線治療などによる成績は良好ですが、進行がんの治療成績には限界があります。

 近年では住民検診、人間ドック検診にあわせて血液中の前立腺特異抗原(PSA)を測定する前立腺がん検診(一次検診)が普及してきました。この結果、無症状で早期発見される症例が増加してきており、死亡数の増加に歯止めがかかることが期待されています。

 一次検診は50歳あるいは55歳以上の男性が対象で、現在のところ血清PSA値が1ミリリットル当たり4ナノグラム(ナノは10億分の1)を超えたものを二次検診対象として医療機関に紹介する手順になっています。医療機関での検査内容には施設差はありますが、直腸内指診、超音波検査で前立腺の硬結や大きさをチェックし、必要に応じてMRI検査=図参照=を行います。

 確定診断のための検査は前述の二次検診結果を総合的に考慮して確定診断(穿刺せんし針を用いた組織採取、病理診断)が必要な症例を判定します。総合的という意味はPSA値のみを基準に検査を行うと基準値を少し超えた4?9・9ナノグラムの範囲では組織検査の陽性率は25?30%にとどまり、不必要な検査を受ける症例が多くなってしまうからです。逆にPSA値が基準値以下でも直腸指診、MRI検査で異常所見があれば組織検査の陽性率は高く、PSAの基準値をもっと低めに設定すべきという意見もあります。

 腫瘍の前立腺周囲への広がり(進展度、病期)の検査は前述のMRI検査、胸腹部CTなどを、さらにPSA値が異常に高いケースでは骨転移の検索目的で骨シンチグラフィー(核医学検査)を行います。

 治療法は前立腺限局がんでは根治手術、根治目的での放射線治療が適応になります。最近の治療機器の進歩で通常の開腹手術に加えて内視鏡手術(ロボット補助を含め)も普及してきています。放射線治療は大きく分けて体外照射法と体内照射(組織内照射)法があり、装置の進歩によりいずれの方法でも治療効果の改善、合併症の減少が見られています。前立腺外への進展や遠隔臓器転移が既にみられる病期では薬物治療(内分泌療法)が主体になりますが、放射線照射を併用する場合もあります=表参照

 前立腺がんの内分泌療法とは正常前立腺細胞に存在する男性ホルモンレセプターが、がん化した細胞にも存在することが多いので、腫瘍の増大を抑えるために男性ホルモンを低下させることです。同時に男性ホルモンの作用を阻害する薬剤を併用します。初期治療として全ての病期に使用でき、80%以上の症例で効果が期待できます。しかし、特に進行がんでは1?2年以内に治療抵抗性あるいは無効になってくることが多く(去勢抵抗性がん)、ホルモン製剤の変更や抗がん剤で対応します。しかし、これらの効果にも限界があり、新規の内分泌治療薬、抗がん剤が治験中で、これらの薬剤の幾つかが近々に導入されるものと思われます。

 死亡数を減らすためにはPSA検診の普及により、治療成績の良好な早期がんの発見に努力することが重要と思われます。

天和会松田病院(電話086―422―3550)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年11月04日 更新)

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