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(9)脊髄刺激療法 難治性慢性痛を治療 天和会松田病院麻酔科医長 岩木俊男

岩木俊男麻酔科医長

 今回は、ペインクリニック専門医の立場から、難治性慢性痛の治療法の一つとして、脊髄刺激療法について紹介します。脊髄刺激療法は約20年前に保険適応が承認されました。欧米では広く行われていますが、日本では治療可能な施設が少ないためまだまだ広まっていません。薬物治療や、神経ブロック、手術などによっても効果が軽減しない痛みに対して試みてみる価値のある治療です。

脊髄刺激療法とは    

 脊髄刺激療法とは、脊髄の硬膜外腔(こうまくがいくう)という場所に、刺激電極を挿入し、微弱電流を流すことにより、痛みを和らげる治療です。痛みの感覚は、痛みの信号が神経から脊髄を通って脳に伝わってはじめて「痛い」と認識されます。脊髄に電気刺激を与えることで、痛みの感覚を、軽いビリビリ感やトントンとマッサージを受けているような感覚に置き換えます。そうすることにより、通常感じている嫌な痛みの信号が脳に伝わりにくくなり、痛みが和らぐように感じられます。

脊髄刺激療法の効果    

 脊髄刺激療法は、痛みを5割から7割程度軽減すると言われています。痛みが少しでも和らぐことによって、服用していた薬の量を減らすことができる、ぐっすり眠れるようになる、さらには活動の幅が広がるため日常生活の質が向上するといったような効果が期待できます。

脊髄刺激療法が有効となる痛み

 慢性難治性疼痛(とうつう)の中で脊髄刺激療法が有効と期待される痛みは、脊椎手術後の腰下肢の痛み、手足切断後の断端痛、幻肢痛(あるはずもない手や足の痛み)などの神経が障害された痛みや閉塞性動脈硬化症などのような末梢まっしょう血流障害による痛みが挙げられます。

脊髄刺激療法の長所   

 脊髄刺激療法が治療法の一つとして選択されるのは、次のような理由があります。脊髄刺激療法による弱い電気刺激は、軽くビリビリした感じやトントンという感じを生じるだけで、他の副作用はありません。神経を破壊しないので、効果がない場合、痛みがなくなり必要がなくなった場合には、電極や刺激装置を取り除くと元の状態に戻すことができます。また、脊髄刺激療法は個々の患者さんに有効かどうか確認するために、1週間ほどのトライアル期間(刺激装置を埋め込まないお試し期間)を必ず設けます。この間に患者自身で効果を確認し、担当医と相談し、刺激装置を埋め込むかどうかを決めることができます。

脊髄刺激療法の有効性を左右する要因

 脊髄刺激療法が効果ある治療法となるかどうかのカギは、医師の経験とスキルに左右される以下の項目です。

 1、適応となる疾患の選択

 2、刺激電極の位置

 3、トライアル期間の刺激設定

 そのため、この治療を受けるにあたって、経験症例が多い施設で相談されるのが肝心です。当院以外に、梶木病院ペインクリニック(岡山市北区)、岡山大学病院麻酔蘇生科、脳神経外科などが経験症例が多い施設です。(日本ペインクリニック学会専門医)



 ◇天和会松田病院(電話086―422―3550)

 いわき・としお 広大付属福山高、岡山大医学部卒。岡山大麻酔蘇生科に入局、岡山大学病院など関連病院勤務の後、2003年4月から天和会松田病院に勤務。現在、同病院麻酔科医長。日本麻酔学会指導医、日本ペインクリニック学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月02日 更新)

タグ: 松田病院

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