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(10)膀胱腫瘍(がん)について 天和会松田病院泌尿器科医長 絹川敬吾

きぬがわ・けいご 白陵高(兵庫県)、川崎医大、同大学院卒。1999年4月から天和会松田病院泌尿器科に勤務。日本泌尿器科学会専門医。

【図1】

【図2】表在性膀胱がん

はじめに

 膀胱(ぼうこう)がんは泌尿器科医が治療する悪性腫瘍の中で比較的頻度が高いものです。発生率は人口10万人当たり男性5人、女性2人くらいの頻度であり、発生のピークは60〜70歳で男女比は約3対1と男性に多くみられます。

 原因として特殊な染料や化学薬品などの発がん作用、遺伝子の突然変異などが考えられますが、一般的には大部分は原因不明です。

 膀胱がんの危険因子は、(1)喫煙=たばこを吸わない人に比べて発生頻度は4〜7倍高くなる(2)化学物質=過去にアニリン系の色素による発がん作用が指摘されていた(3)膀胱結石や慢性の炎症(慢性の刺激が膀胱粘膜に加わることで発がんを引き起こす可能性がある)(4)薬剤=鎮痛剤に使用されているフェナセチン、抗がん剤に使用されているシクロホスファミドなど―です。

症状

 肉眼的血尿が最も重要な症状です。しかも無症状で自然に消失することがありますが、このような時は安心せずに肉眼的血尿がみられれば必ず泌尿器科を受診しましょう。

 また下腹部の痛みや排尿時の痛みを感じたり、頻尿をきたしたりする場合も注意が必要です。さらに、がんが大きくなり尿管口を閉塞(へいそく)すると、腎盂(じんう)や尿管が拡張し腰背部痛をきたす場合があります。

診断

 (1)尿細胞診=採取した尿中に、がん細胞がないかどうか顕微鏡で検査するものです。患者さんに負担のかからない検査ですが、必ずしもすべての膀胱がんを診断できるものではありません。

 (2)膀胱内視鏡検査=最も重要な検査で膀胱内をカメラで観察します。昔は硬性鏡と呼ばれる金属棒のようなカメラで行い、その痛みが激しく患者さんから最も嫌われる検査でした。しかし最近は、軟性膀胱ファイバースコープ(やわらかいカメラ)を使用しますので軽度の痛みで施行することができます。

 (3)画像検査(超音波検査、CT、MRI)=内視鏡検査で膀胱内に腫瘍が確認されれば、腎尿管への影響、膀胱壁への浸潤の有無などを画像検査で精査します。

治療法

 膀胱がんは大きく分けて次の二つのタイプがあり治療方法が異なります=図1参照

 (1)表在性膀胱がん=悪性度が低く、膀胱の内腔(ないくう)に突出した表面は乳頭状(カリフラワー様)で茎を持っています=図2参照。膀胱がんの70%はこのタイプで、内視鏡を使って腫瘍を切除する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR)が一般的ですが、半数以上の患者さんに再発しますので定期的な膀胱内視鏡検査(3カ月ごと)が重要となります。また再発予防のため膀胱内に抗がん剤を注入することがあります。

 たくさんの腫瘍がある場合、上皮内がん(膀胱の場合、異型度が強く浸潤進行しやすく内視鏡手術では切除不可能)の場合は、経尿道的内視鏡手術に加えBCG(弱毒化した結核菌)の膀胱内注入療法を行います。この治療法は、有効率(70〜90%)は高いですが、膀胱刺激症状、発熱、感染症などの副作用もあるため慎重に行う必要があります。

 (2)浸潤性膀胱がん=悪性度が高く、腫瘍の浸潤も膀胱壁の深くまで達しており転移もしやすくなります。このため内視鏡手術で治療することが困難で膀胱全摘除術が必要となります。患者さんの希望により放射線治療や化学療法などで膀胱を温存する治療もあります。

おわりに

 膀胱がんは早期発見が非常に大事ですので、痛みのない血尿に気がつけばすぐに泌尿器科を受診してください。膀胱がんは再発しやすいがんです。もし膀胱がんになったとしても決して悲観することはありませんが、楽観しすぎることも禁物です。病気を正しく理解し、医師と患者さんがお互いにじっくり話し合って治療方針を決めていくことが大事です。(日本泌尿器科学会専門医)

◇天和会松田病院(電話086―422―3550)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月16日 更新)

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