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パーキンソン症候群 倉敷スイートホスピタル脳神経外科部長 岡村大成

おかむら・ひろなり 福岡県立三池高、川崎医大卒、同大学院修了。医学博士。しげい病院脳神経外科部長兼総合リハビリセンター長、岡山中央病院脳神経外科部長を経て2013年4月から現職。日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本体育協会認定スポーツドクター。

 運動障害の代表的疾患にパーキンソン病があります。本疾患は、中脳の黒質のドパミン神経細胞が次第に減少する、公費負担の特定疾患です。ドパミンは運動の仕組みを調節するような働きを担っているため、動きが遅くなったり、体の緊張が高くなったりします。

 一部のパーキンソン病は遺伝子が原因で発症することが分かっていますが、多くは原因不明で、遺伝することはありません。主に50歳代後半から60歳代に発症し、4大症状として(1)安静時振戦(しんせん)(2)筋強剛(きょうごう)(筋固縮(こしゅく))(3)無動・寡動(かどう)(4)姿勢反射障害―を特徴とする疾患です。具体的には手足のふるえ、動作緩慢、小刻み歩行などで現れやすく、動作緩慢は精神活動にも認められます。日本では、人口10万当たり100〜150人の患者さんが存在します。

 ところが、薬物や脳卒中が原因で同じような症状を示す場合があり、パーキンソン症候群と呼ばれています。薬物が原因である場合はそれを中止することによって、脳卒中が原因である場合は不足物質を補うことによって症状は改善します。脳卒中の患者数は123万5千人(うち75%が脳梗塞92万4千人、平成23年患者調査)ですから、全ての人がパーキンソン症候群を起こすとしたらパーキンソン病の約10倍近くの数となります。

 パーキンソン病との違いは脳卒中が原因である場合、発症年齢はやや高めで基本的には症状の進行はありません。パーキンソン病に比べ、抗パーキンソン剤の劇的な効果には劣りますが、むしろ少量で効き、過量となれば症状が悪化してしまうこともあります。

原因疾患、薬剤

 脳梗塞、特に両側性のラクナ(穿通枝(せんつうし))脳梗塞で頻度が高く、胃薬、抗うつ剤などが原因の場合にもしばしば遭遇します。特に最近は高齢者のうつ病が問題となることが多く、抗うつ剤の処方例も増えてきていますので注意が必要です。疑わしい薬剤があれば、まず、それを止めてみることから治療を始めます。

 ただし、うつ症状もパーキンソン症状も精神活動の鈍麻状態では共通した部分がありますので、注意深く、身体所見を診ることが重要となります。また、すくみ足傾向は脳卒中や外傷後などに起こる水頭症でも認められますが、やはり、身体所見や画像検査で区別することができます。

診断 

 病歴聴取、神経学的検査(診察)、頭部CT、MRI、核医学検査などで総合的に行いますが、診察までの過程でおおよそ診断することができます。

 診察では安静時の手のふるえや動かした時の筋肉の抵抗を確認します。また、実際に起き上がったり、歩いていただいて、姿勢反射障害やすくみ足、突進歩行などがないか調べます。これらパーキンソニズム(パーキンソン病、同症候群の症状)がある場合には画像検査を用いてそのどちらの病気であるのか鑑別していきます。

 パーキンソン病の場合は基本的にはCT、MRIで脳梗塞などの異常所見を認めることは少なく、抗パーキンソン剤を検査前に飲んでおいてもらうと検査終了時には症状がすでに軽快している場合もあります。核医学検査も診断の手助けとなります。パーキンソン病特有の所見が認められなければパーキンソン症候群である可能性が高くなります。

治療 

 パーキンソン病では刺激電極留置術(心臓ペースメーカーに似た脳刺激装置)などの外科的治療も行われますが、パーキンソン症候群の治療は水頭症など一部疾患以外では抗パーキンソン剤による薬物治療が中心です。治療薬の一つであるアマンタジンは合併することの多い誤嚥性(ごえんせい)肺炎の予防薬として使われることもあります。リハビリテーションももちろん有効で、並行して行えることが理想です。

まとめ 

 何となく活気がない、動作が鈍いなどで受診され、頭部CTやMRIで多発性脳梗塞(無症候性)が見つかり、そこから脳梗塞再発予防とパーキンソン症状の治療が始まることも少なくありません。精神活動の低下は認知症へと発展していく可能性を秘め、運動歩行障害のために転倒、骨折を合併したり、交通事故に遭遇する危険性もあります。薬剤が身体に合えばADL(日常生活動作能力)がぐっと改善され、表情や会話も豊かとなり、ご本人のQOL(生活の質)はもちろん、介助者の負担軽減が期待できる疾患です。同様の症状にお心当たりの方はぜひ、専門医への受診をご検討ください。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月16日 更新)

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