文字 

切開小さく患者負担軽減 TAVR、岡山県内2施設認定

人工弁を植え込むために使用する医療器具。手前がバルーンを膨らませた状態(エドワーズライフサイエンス社提供)

胸部を切開して挿入した場合(右)と太ももの付け根から挿入した場合の治療イメージ図(エドワーズライフサイエンス社提供)

 血流が悪くなり、重症化すると死に至る心疾患「大動脈弁狭窄(きょうさく)症」の患者に、カテーテルで人工弁を送り込む「経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)」が注目を集めている。中四国地方の実施施設には、治験から参加した倉敷中央病院(倉敷市)に加え、心臓病センター榊原病院(岡山市)の岡山県内2施設だけが認定を受けており、体力低下などで外科手術が難しい高齢患者らを救える治療法として普及が期待される。

 TAVRは、太ももの付け根の大動脈か、胸部の切開部から挿入したカテーテル(直径7〜8ミリ)で、牛の心のう膜と金属からなる人工弁を患部まで運び、バルーンで膨らませて植え込み、血流機能を回復させる。

 フランス人医師が考案し、欧州では2007年、米国は11年に承認された。治療時間は1時間半〜2時間。いずれの手法も切開面が小さく、患者の身体的な負担が少ないのが特長だ。

◇  ◇  ◇

 国内では10年に倉敷中央病院、大阪大医学部付属病院(大阪)、榊原記念病院(東京)が治験を始め、主に80代の患者64人を治療。外科手術に引けを取らない成果が得られたとして、今年10月から保険診療となった。

 倉敷中央病院は治験終了後の臨床研究を含め、これまでに66〜93歳の患者33人に実施。うち24人には循環器内科の後藤剛部長が担当する太もも付け根からの治療を、残る9人には心臓血管外科の小宮達彦主任部長らが担う胸部からの挿入を行った。

 同病院での大動脈弁置換術は年間約80例といい、後藤部長は「うち20人程度にTAVRを用いられるのではないか」とみている。

◇  ◇  ◇

 TAVRは、緊急時には開胸する外科手術が必要となり、いずれの挿入法も心臓血管外科医、循環器内科医らによる高度なチーム医療が要求されている。

 日本心臓血管外科学会、日本循環器学会など関連4学会は外科手術とカテーテル治療に習熟した医師がおり、充実した手術室を持つ病院などに実施施設を限定。4学会でつくる協議会が設けた基準をクリアする各病院から申請を受け付け、現地調査して可否を判断している。

 心臓病センター榊原病院は、既に取り組んでいる大阪大と連携、これまでに30例のTAVRを見学するなど準備を進めてきた。11月下旬に実施施設の認定を受け、これまでに1例で用いた。

 同病院では年間約250例の弁置換術を行っており、その2〜3割が対象になるという。吉鷹秀範上席副院長は「熟練した医師らによるチームで、高度な医療を提供していきたい」としている。


 大動脈弁狭窄症 左心室から全身に血液を送り出すとともに、その逆流を防ぐ大動脈弁が固く変性して機能しなくなる疾患。原因は先天的な奇形、幼少期の感染によるリウマチ熱、高齢による弁の硬化など。急速に進む高齢化で患者は増えており、全国の推定患者は約60万〜100万人。息切れや動悸(どうき)などが起こり、症状が進むと失神や突然死することもある。治療の第1選択肢は開胸して弁を取り換える外科手術で年約1万症例。ただ、一時的に血流を止めるため、患者の身体的な負担は大きく、体力が低下した高齢者ら約30%の患者には実施できない。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2013年12月25日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ