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(1)心臓手術 心臓病センター榊原病院 坂口太一副院長 MADE IN USAの心臓外科医 1400例を本場で

坂口太一副院長

 ―昨年12月、岡山で初の心臓移植手術が岡山大学病院で行われた。また、大動脈弁狭窄(きょうさく)症に対してカテーテルで心臓まで大動脈弁(生体弁)を送り込んで留置する革新的な治療法が倉敷中央病院、心臓病センター榊原病院で始まった。岡山は心臓病治療の先進地ですが、新しい、患者負担の少ない治療が開始される意義ある年でした。

 坂口 そうですね、二つのことは患者さんにとって大きな進展です。まず、大動脈弁狭窄症から話しましょうか。こちらは恩恵を受ける患者さんは多いでしょう。これまで開胸手術で血液循環を止め、人工心肺で3時間の手術。臓器機能の低下した高齢患者には体力的に耐えられないとあきらめるケースも少なくなかった。タビ(TAVI)と呼ばれる経カテーテル大動脈弁治療は太ももの付け根の大動脈か、肋骨(ろっこつ)の間からカテーテルを入れ、牛の心のう膜で作った生体弁を植え込む。早いと1時間前後で終わります。

 ―楽ですねぇ、患者にとっては。安全性というか成功率は。

 坂口 欧米では2002年から治療開始、95%を超えるというデータがあります。国内では心臓の手術、カテーテル治療に習熟した病院に限るよう日本心臓血管外科学会など4学会が実施施設認定基準を決め、岡山県では2病院が選ばれました。

 ―さて、中四国初の心臓移植手術ですが、佐野俊二岡山大教授が執刀され、脳死判定された10歳〜15歳未満の男子の心臓を拡張型心筋症の10代女性に移植した。

 坂口 岡山大は子どもの心臓手術では実績がありますから、移植手術実施は小児の難治性心疾患の患者には朗報でしょう。移植しか治療の方法がないというケースがあり、早くアメリカのように日常的な治療になってほしいですねぇ。そうすれば、救命される患者さんが増える。安全性では問題ないレベルに達しており、あとは臓器提供者が増えることです。

 ―先生はMADE IN USAの心臓血管外科医と言われています。なぜ、アメリカだったのですか。

 坂口 心臓手術の本場ですから。当時、日本の大学では40歳を過ぎないと、心臓手術はやらせてもらえなかった。待てないと、アメリカに大学の先輩がおられ決心したんです。研究員で行って、臨床にもぐりこみ、本場のスキルを身につけようと考えた。33歳でした。最初3年間は冠動脈の再狭窄の研究をしながら米国医師国家試験に取り組みました。五つの試験に合格しないといけないのですが、最後の試験に落ちて再試験までの2カ月間は本当に死に物狂いの勉強でした。

 ―当時日本人の合格者は少なかった難関を乗り越えいよいよ、心臓外科医を養成するトレーニングの始まりですねっ。

 坂口 それこそ待ち望んでいた手術漬けの毎日でした。第1助手になり、執刀医の前に立ち、先輩のスキルを目で学ぶことから始まり、徐々にステップアップ。1日2例、午前、午後に1例ずつ毎日手術、年間300例以上しますから、独り立ちするまで何年もかかる日本とは違い、短期間で執刀医として手術できるように鍛えられる。

 ―外科の基本は血管を縫い合わせる吻合(ふんごう)です。

 坂口 ピンセットのようなものでL字を丸くした形の針を持って1針ずつ縫い進める。冠動脈のバイパス手術だと、直径1・5ミリの血管を7ミリ切開して別の血管と縫い合わせる。大体12〜15針。1針1ミリ以下の間隔。ムダな動きをせず、リズム良く運針することが求められる。第1針はこの角度で入り2針はこちらからと状況に応じて考えてしないと、すぐその場でダメが出る。角度があるから1針入れて、持ち変えるとそれはムダな動きとしかられる。良い、悪いが実に的確に指摘され、技術を身につけるよう育てる。一つの吻合を10分以内で終わらせることを求められました。私は4倍のルーペを使い、細密な作業を繰り返すマイクロサージャリーにスキルを磨き体力、気力で取り組みました。

―手術数も多い?

 坂口 コロンビア大学病院は全米7位の手術数を誇り、クリントン元大統領のバイパス手術をしたところです。年間2000例(うち600例は小児)の心臓手術をしています。バイパスと弁膜症がそれぞれ3分の1、残りの3分の1は大血管や心移植、補助人工心臓などです。執刀は最初、週1例だったのが、2年目は週2、3例になり、3年目以降は週5、6例になりました。臓器機能の低い患者や再手術など難しい手術が多く勉強になりました。

 ―心臓移植は。

 坂口 年間約100例。全米一です。私は移植手術が決まると、電話呼び出しのローテーションに入り、トータルで50例を執刀しました。私はすべて成人の手術でした。ポイントは大動脈など4本の血管吻合。1本を10分以下にすれば、始めて1時間以内に血流再開し3時間で済むでしょう。心臓手術はスピードが勝負。それとアクシデントに対応する力です。突然、出血すると3分以内に止血しないとすべては終わる。普段からここでアクシデントがあればどうするか、プラン1、2でなく3まで用意する危機管理。いざという時の胆力。手術全体をシミュレーションし、チームプレーで進めるリーダーシップも大事です。

 ―岡山大学病院、川崎医大病院、倉敷中央病院、心臓病センター榊原病院などがあり、岡山の心臓病治療はトップクラスです。

 坂口 それぞれ国内はもちろん世界に通じる高度な心臓病治療を展開しています。その中で私たちは民間の心臓専門病院としての立場を生かし、治療技術だけでなく、患者さんに心から満足してもらえるような全人的な医療サービスを提供できればと思っています。



 心臓病センター榊原病院(岡山市北区中井町2丁目5の1、電話086―225―7111)

さかぐち・たいち 1992年大阪大医学部卒、第一外科(現心臓血管外科)入局。松田暉教授(当時)は心臓移植再開第1例を執刀した人。大阪大学病院、大阪厚生年金病院などで一般外科、心臓血管外科を研修。心臓移植の臓器保存の研究で学位取得。1999〜2007年コロンビア大学へ留学、米国医師免許を取得し心臓外科の臨床医として心臓移植を含めて約1400例の手術を経験した。09年先進心血管治療学准教授、12年心臓病センター榊原病院副院長。日本心臓血管外科学会専門医、日本移植学会移植認定医、認定植込型補助人工心臓実施医。46歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年01月21日 更新)

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