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義に生きる人々 倉敷中央病院長 小笠原敬三

 中国文学の好きな友人から借りた「水滸伝」。「滸」は「ほとり」を表し、『水滸伝』とは「水のほとりの物語」という意味であり、梁山泊(りょうざんぱく)を指すといわれます。

 中国の北宋末期、汚職官吏や不正がはびこる世の中、複雑な社会の中でまっすぐ生きようとしても罪となり、理不尽にも社会から迫害された108人の好漢たちが、何かに導かれるように梁山泊に集まってきます。彼らはやがて、悪徳官吏を打倒し、国を救うことを目指すようになります。

 登場人物の爽快で豪快な生き方は、もやもやとした私の高校生活に清涼感をもたらしてくれました。特に義侠心(ぎきょうしん)に厚い律義な巨漢、魯達(魯智深)は、大酒を好み、食欲の塊で、重い禅杖(ぜんじょう)を振り回して敵をやっつける豪快な生き方は、乱暴者でしたが痛快でした。

 頭領の座を自らの死で譲った王倫、初代頭領に推戴された晁蓋(ちょうがい)、その死後梁山泊の頭領に推薦された宋江。私は当時、リーダーとなった宋江にはあまり魅力は感じませんでした。

 宋江は、義を重んじ困窮する者には援助を惜しみなく与える実直な官吏でありましたが、決して林冲や王進のように卓越した実践的戦闘能力があったわけではありません。梁山泊組織が巨大化するに従い、個人的欲望に動かされることがない高徳で冷静なリーダーだからこそ、常に欲望を満たそうとする悪徳官吏高〓(こうきゅう)に対峙(たいじ)できたのかもしれません。

 ノーベル賞受賞者湯川秀樹、兄の貝塚茂樹(東洋史学者)、弟の小川環樹(中国文学者)の兄弟3人は、子供の頃寝転んで、梁山泊の108人の名前を挙げる遊びをしていました。

※〓はにんべんに求

(2014年2月20日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年02月20日 更新)

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