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(3)統合失調症 万成病院診療部長 阿部慶一

あべ・けいいち 岡山大安寺高、香川医科大卒。香川医大病院勤務の後、慈圭病院、橋本病院(香川県三豊市)を経て2008年4月から万成病院に勤務。現在、診療部長。日本精神神経学会指導医・専門医、精神保健指定医。

 今回は統合失調症を取り上げます。いったいどんな病気なのか、みなさんのイメージ作りに役立てばと思います。

 昔、僕の先輩医師は「体に内科と外科がいるように脳にも内科と外科がある。精神科は脳の内科なのだ」と言いました。その頃、精神科に入院する患者さんの多くが統合失調症の患者さんでした。

脳細胞の不調

 統合失調症は脳の病気です。さらに言えば、脳細胞間のバランスが崩れて症状を生じる病気だと言われています。脳は百億以上の神経細胞で出来ていて、それらが連携して働いています。その一部で不調が生じるのです。つまり気の持ちようとか気力次第で何とかなるようなものではありません。

 バランスが崩れると言っても、その根本的な原因はいまだはっきりせず、研究中です。体質の影響もあるしストレスの影響もあり、原因が分からないまま発症していることのほうが多いと思います。思春期から青年期、比較的若い時期に症状が現れると言われていましたが、最近は高齢で発症する人もいます。

Aさんの場合

 典型的な例を挙げてみましょう。Aさんは大学生。最近、周囲が自分の悪口を言うのが分かるようになりました。遠くで話しているのが分かってしまうのですごく気分が悪く、通学しなくなりました。お風呂に入るとそれを皆に言う声がするので入らなくなりました。

 何日もそういうことが続いたので、家族が心配して精神科に受診することになりました。Aさんは、自分はどこも悪くないのに何で病院にいくのかと思いましたが、医者は疲れているから薬を飲んでくださいと言いました。きちんと薬を飲むうちに楽になってきました。大学は休学中ですが少しずつ復学の準備をしています。

統合失調症の症状

 統合失調症はどんな症状を呈するのでしょうか。思考がまとまらなくなるせいで理屈の通った話が出来なくなります。ないものをあるように感じたり、現実とは異なることを現実だと思い込んだりします。幻覚や妄想といわれる症状です。周囲で起きていることについてまとまりよく把握することができず「すごく何かおかしくなっている」と強い不安を感じながら、それが病気のせいで起きていると本人自身は気が付きません。

統合失調症の治療

 こうしたことはとても苦しい体験だと言われていますが、それを表現することも困難になります。不安から逃れようと引きこもったり、なんとかしようとしたことで逆にトラブルになり、心配した家族に勧められて受診に至ります。

 現在の統合失調症の治療は、まず薬と休息で脳細胞のバランスを回復させることです。いったん回復し安定しても、また脳が疲れてバランスを崩し病状が悪化したり再発したりするのを防ぐために、薬をきちんと続けることと、暮らしの中で無理をしないことが大事です。

 病状が安定したら、無理のない範囲でリハビリすることも大事です。統合失調症の患者さんは脳が疲れやすくなるので、どうしても活動的な暮らしを避けてしまいます。元気な頃には出来たことが難しかったり途中までしか出来なかったりちぐはぐになったりします。だからリハビリのためにデイケアや作業療法に参加したり、グループミーティングを行うことで回復を目指すのです。

 昔は回復途中の人のリハビリで出来ることが限られていました。最近では作業所があちこちに作られ、一般就労ほどきつくなく若干の給与も出る制度になっています。一人一人の病状や個性に合わせてどんなやり方がいいか、患者さん本人と多くの医療スタッフが相談しながら、日々がんばっています。

歴史の流れ 社会の流れ

 戦後の日本では精神科の病院がたくさんできました。それは100人に1人が発症するといわれる統合失調症の患者さんの入院治療をするためでした。昔は治療法も少なく、この病気になったら一生入院しなくてはならないと考えられていました。

 半世紀前に症状を抑える薬が開発されました。良くなる人が増えて退院する人が増えるかと思われましたが、期待したほどには増えませんでした。重い病状を抱え十分に改善しない人も少なくなかったことと、世の中の不安も根強かったからです。しかし医療の進歩に伴って、症状が重くなる患者さんは昔より随分少なくなりました。一生入院と言われていたのが、今では外来通院で問題なく過ごせる人が多くなってきています。

 残念ながら、統合失調症を「完治」させる治療はいまだありません。多くの患者さんが病気と付き合いながら、根気強く療養し、無理ができない生活を受け止めながら暮らしています。そうした暮らしがみんなの町の中にあるということが、自然で当たり前な世の中になっていってほしいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年03月03日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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