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(3)認知症 川崎医大神経内科学  砂田芳秀教授・副学長 原因疾患の鑑別診断が大事 研究進む先制医療

砂田芳秀教授・副学長

 ―川崎医大教授に就任されたのが15年前、以来一貫して認知症患者と向き合い、現在川崎医大病院の認知症疾患医療センター長も務めておられます。認知症高齢者は全国で急増し2012年時点で約462万人と推計されましたが、目下の診療課題は何ですか。

 砂田 まず留意しておくべきは、認知症はあくまで症状の名前だということです。認知症という病気があるわけではない。原因となる病気はアルツハイマー病以外にもいろいろあり、それをPETやMRI、脳血流シンチグラフィーなどで正確に鑑別診断することが大事です。病気によって対処の仕方が異なるからです。原因疾患の種類で言うと、医学教科書の1ページ分にずらりとリストが並ぶぐらい多い。正常圧水頭症と慢性硬膜下血腫は脳外科的治療でよくなる代表例です。ビタミン欠乏症や甲状腺機能低下症といった内科的な疾患も、ビタミン補充、ホルモン補充でよくなる。治療可能な認知症もあるのです。

 ―川崎医大病院での認知症の鑑別診断実績を教えてください。

 砂田 当院の12年度実績(4月〜翌年3月、神経内科と心療科の合計)ですが、773人の患者さんに鑑別診断を行いました。同年度外来患者数は4214人でした。02年から13年までに当院物忘れ外来を受診した患者さんの疾患別比率はアルツハイマー病45%、軽度認知障害16%、脳血管性認知症10%、前頭側頭型認知症4%、レビー小体型認知症1%―などでした。

 ―アルツハイマー病患者が多いのですね。現在日本で承認されているドネペジル(商品名アリセプト)など4種類の薬はアルツハイマー病の症状の進行を遅らせる対症療法薬で、根本治療薬ではありませんね。

 砂田 そうです。認知症の半分はアルツハイマー病と言われ、この病気をいかに治療できるようにするかが世界的課題です。実は、物忘れなどの症状が出るはるか20年前から脳の中に染み(老人斑)がたまり始めることが分かってきました。症状が出てからでは抗体薬(臨床研究中)などを使って染みを消そうとしても遅いのではないか。そこで、症状が出る前の早期に正確な診断をつけ、抗体薬などで発症を防ごうというのが最近の臨床研究の考え方です。「先制医療」と呼ばれています。

 ―アルツハイマー病発症前の画像診断にはPETを使うと聞きました。

 砂田 老人斑の成分にくっつく特殊な検査薬を注射した後でPETを撮ると、そこが光って見えます。「PIB―PET」という画期的な検査法で、これを使った発症前診断の臨床研究が進められています。

 ―川崎医大病院は12年5月から倉敷市の児島医師会と連携し、認知症の地域連携パスを運用しています。

 砂田 患者数の多さから、もはや専門医療機関だけで済む状況では決してない。かかりつけ医の先生方はもちろん、福祉施設や介護事業所の方々ともつながらなければなりません。そうした考えから地域連携パスの運用を始めました。多様な関係者が患者さんの情報を共有できるよう、検査結果や経過観察についてシートに記入しています。患者さん自身が、どのような思いで暮らしているかを書き込む欄もあります。そこを読むと、単なる情報ツール(道具)といった枠を超えて、人生を教えられる“宝物”のような印象を持ちます。

 ―神経内科医になられたきっかけは。

 砂田 岡山大を卒業し東京の国立病院医療センターで研修医をしていた時代、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんを受け持ち、当時の神経内科医長で後に東大教授となる萬年徹先生の薫陶を受けたことがきっかけです。その後米国に留学し研究を始めた筋ジストロフィーは、今も研究テーマの一つです。認知症疾患という患者数の多い社会的にも重大な病気と向き合いつつ、患者数は少ないけれど治療法の確立されていない病気も何とかしたいと考えています。

◇川崎医大病院(倉敷市松島577、電話086―462―1111)


 すなだ・よしひで 広島県立三原高、岡山大医学部卒。国立病院医療センター(東京)、東大医学部脳研神経内科、米国アイオワ大医学部ハワード・ヒューズ医学研究所留学、帝京大医学部神経内科学講師を経て、1999年から川崎医大神経内科学教授。2009年から同大副学長。13年10月から難病のミトコンドリア脳筋症「MELAS(メラス)」の患者に対する医師主導治験を行っている。日本神経学会神経内科専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・指導医、日本頭痛学会認定医・専門医。56歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年03月17日 更新)

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