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(4)統合失調症の心理教育 万成病院地域連携室 精神保健福祉士 菅原明美

すがはら・あけみ 日本福祉大社会福祉学部卒、佛教大大学院社会福祉学研究科修士課程修了。1997年2月から万成病院に勤務、現在同病院地域連携室課長。精神保健福祉士、日本心理教育・家族教室ネットワーク認定家族心理教育インストラクター。

 「心理教育」ということばをご存じですか。

心理教育とは

 「教育」というと、一方的に情報を与えられ、指導される印象をもたれがちですが、そうではありません。

 病気を経験すると、本人はもちろんのこと家族も「治療はどのように進んでいくのだろう」「これからの生活はどうなるのだろう」と途方にくれてしまいます。

 心理教育は「情報をきちんと伝える」「対処方法を会得する」という二つの軸のもと、同じ経験をした者同士が精神保健福祉士らとともに語り、学び合うことで前向きな気持ちになることを目標としています。

 つまり、医師や専門職にすべてを任せるのではなく、患者本人、家族も一緒に考えていく双方向のコミュニケーションを大切にしているのです。

ほどほどの距離が大切

 心理教育が最も多く行われている疾患は、統合失調症です。

 統合失調症は、周囲の人との人間関係に敏感になりやすいため、本人と家族の間にお互いの負担にならないこころの距離が必要です。その距離が近い、すなわちこころを伝える感情の表し方が強すぎると、病気の予後(医学的な見通し)に悪影響を及ぼします。そのため、患者を支える家族支援のひとつとして、こころの距離を知る心理教育が行われています。

 特に発症直後、家族は「早く気づいてあげればよかった」と後悔の念にさいなまれ、あせる気持ちが生じます。そのため、自分に言い聞かせるように「あなただけがつらいのではないのよ」「気持ちを前向きにもって」と何気なく言葉にするのですが、それは患者にとってつらく、責められているよう感じられるのです。そのような家族の「心配しすぎ」や「いらだち」を上手に調節してもらうことが、本人の回復への助けになります。

 では、どうしたらいいのでしょうか。

情報が力になる

 病気の正しい知識や情報を得ることは、不安の軽減につながります。

 統合失調症になった理由を「育て方が悪かった」とか誤って認識することで、自責感を抱く方も少なくありません。また、「ごろごろしているけれど、これも症状なのか」「薬をずっと飲んでいていいのだろうか」などと分からないことが重なり、不安のかたまりになってしまうこともあります。

 一人で考えていると心配の種を増やします。家族同士や医師や看護師、精神保健福祉士らとの間で十分に正しい知識を深められるのが心理教育なのです。

経験者同士で学び合う

 同じ経験をした人と出会い、病気とつきあう工夫を話し合うことで、家族自身の気持ちが楽になります。また相談を通じて解決法の選択肢がひろがります。

 当院においても、11年前から「家族教室」を開催しています。

 この会に参加した母親のAさんは、「『周りが焦るのは禁物』と、知識としては学んだけれど、実際本人を目の前にすると先行きが不安になり、どう接したらいいのか分からなくなる」と話されました。

 統合失調症は回復のペースがゆるやかです。そのため「本人も家族も回復をあせり、いらだちが昂(こう)じて衝突する」のは家庭で起きがちなトラブルです。

 そこでAさんは、「爆発しそうな時、どうするか」を相談のテーマとしてあげました。他の参加家族も同様の経験があることから、「買い物に出かけて気分転換する」「不穏な空気をかえるため『お茶飲む?』と声をかける」「飼い犬に愚痴を言う」「好きなサッカーの話をする」など、それぞれがうまくいった対処法を出し合うのです。

 Aさんはそれらを聞いて、「今度『お茶を飲む?』をまず試してみようと思う」と語り、「悩んでいるのは私だけじゃない。元気が出た」と述べられました。

 他人の経験を聞くことで、新たなものの見方にふれて気持ちが前向きになるのです。

ひとりで抱え込まない

 病気になることは、誰しもつらいことですが、家族が元気で、前向きな気持ちで過ごすことが、本人が回復する力になります。そのためには、ひとりで抱え込まないことです。私たち精神保健福祉士も、心理教育を通してそのような家族のお役に立ちたいと願っています。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2014年03月17日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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